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成田空港と都心を結ぶ新構想  「押上〜泉岳寺短絡線」はどうなる?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

成田空港の航空機の年間発着回数は、2024年度が25万回で、2040年代後半には50万回に達するという。旅客ターミナル容量は、現在年5700万人だが、年50万回発着時は7500万人になる。増強に対し、発着回数は滑走路の延伸と新設を進め、ターミナル容量については「ワンターミナル構想」が浮上した。

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問題は都心側にもある

 「『新しい成田空港』構想とりまとめ 2.0」は、空港アクセス鉄道について重要な指摘をしている。「都心側の過密ダイヤ」だ。成田国際空港付近を複線化すれば、列車の本数を大幅に増発可能だ。複線で線路が2本になれば列車も2倍という単純なものではなく、どこでも自由にすれ違えるから続行運転も可能になる。

 しかし、成田国際空港側で列車を増発しようとしても、都心側が受け入れられない。JR東日本も京成電鉄側も、通勤電車で混雑している。成田国際空港方面の列車を走らせるためのダイヤの隙間がない。各駅停車のダイヤを譲ってもらうか、迂回(うかい)を検討する必要がある。

 成田エクスプレスの場合は、現在は総武快速線経由となっているけれども、成田駅でスイッチバックして上野東京ライン経由にするか、千葉と蘇我でスイッチバックして京葉線回りにするなどの方法もある。京葉線から武蔵野線を経由して大宮、八王子、富士山方面も可能だ。しかしどの路線も混雑しているし、自分で書いておきながら面倒なルートだと思う。

 京成電鉄側はスカイライナーについて、上野発着だけではなく、青砥から押上線、都営地下鉄浅草線、京急電鉄に直通させるルートも考えられる。この場合、現在のスカイライナーは地下鉄区間に入れないから、地下鉄直通スカイライナー車両を新造する必要がある。

 あるいは、音沙汰のない「都心直結線」構想を再起動する方法もある。都心直結線は都営地下鉄浅草線のバイパス路線として構想されている。京成押上線の押上駅から分岐し、丸ノ内線東京駅付近の「新東京駅」を経由して、京急電鉄の泉岳寺駅に至るルートだ。

 当初は東京駅と成田国際空港、東京駅と羽田空港、成田国際空港と羽田空港を最速で結ぶルートとして構想された。当時は成田国際空港が国際線、羽田空港が国内線と棲(す)み分けされており、両空港を50分程度で直結する路線は魅力的に見えた。

 しかし、航空自由化によって地方空港に国際線の乗り入れが可能になると、国内各地と国際線を乗り継ぐハブ空港の役目は韓国の仁川空港に移ってしまう。また、羽田空港の再国際化が決まり、成田国際空港で国内線LCCの乗り入れが始まると、成田国際空港と羽田空港を結ぶルートの意義が薄れていった。JR東日本が「羽田アクセス線」に着手すると、東京と羽田空港が直結できる路線も出来上がる。

 成田国際空港の発着回数を増やすために、成田空港高速鉄道の複々線化は有効だ。しかし、その性能を発揮するために、都心部の鉄道路線の再編も必要になる。どうせ複線を増やすなら、いっそリニア中央新幹線を品川駅から引っ張ってきたらどうか。いやこれは妄想が過ぎた。


都心側が過密だと成田国際空港側も増発できない(出典:NAA、『新しい成田空港』構想とりまとめ 2.0 概要

2016年に提出された「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」(答申198号)において、都心直結線は「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」の筆頭にある

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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