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ドコモ前田社長に聞くファンマーケ 「スポーツとエンタメは戦略的領域」(1/2 ページ)

NTTドコモの前田義晃社長が、ITmedia ビジネスオンラインの単独インタビューに応じた。前田社長が打ち出すのは「顧客起点の運営」だ。前田社長に今後の展望を聞いた。

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 6月にNTTドコモのトップに就任した前田義晃社長が、ITmedia ビジネスオンラインの単独インタビューに応じた。前田社長は2000年にリクルートからドコモに移ってきた転職組。1992年のドコモ営業開始後、NTTグループの生え抜き社員以外が社長に就くのは初めてとなる。

 主にdマガジン、dポイントなどの「dモノ」のビジネスの拡大やプラットフォームビジネスに取り組んできた前田社長が打ち出すのは「顧客起点の運営」だ。副社長時代には、カンパニー制を導入して組織の意思決定を速めたり、映像配信サービス「Lemino」のコンテンツを強化したりするなどドコモという巨大組織を変革するためのかじ取りに携わってきた。

 ドコモは年間で1146億円の研究開発費を有し、約1億人の会員基盤から生み出される膨大なデータも持つ。スマートフォンの競争力の源泉は、通信に加えプラットフォームをベースとしたコンテンツ力にある。その経営をどう担うのか。前田社長に展望を聞いた。


前田義晃(まえだ よしあき) NTTドコモ社長。北海道大学法学部卒業。株式会社リクルートを経て、2000年5月株式会社NTTドコモに参画。iチャネルやiコンシェルといったサービスを手掛け、これまでにないユーザー体験を実現する。本格的なスマートフォンの時代が到来すると、音楽配信の先駆けとなるNapsterとのサービス・アライアンスの企画運営を担当。2017年より執行役員プラットフォームビジネス推進部長。dポイントやd払いによって社会の在り方を変革し、ドコモ自身も新たなステージへと飛躍させている。2020年7月、常務執行役員、マーケティングプラットフォーム本部長に就任。2022年7月に代表取締役副社長、スマートライフカンパニー長に就任。2024年6月にNTTドコモ社長就任

国立競技場などスタジアム、アリーナを運営 狙いは?

 まずはドコモの2023年度の数字を見てみたい。営業収益は前年比1.3%増の6兆1400億円、営業利益は同4.6%増の1兆1444億円となり、増収増益だった。dポイントの会員数は1億人を突破。提携先は90万社、300万店舗で利用できるほか、クレジットカードとQRコードで決済された金融決済取扱高は前年比18%増の13兆1200億円に達した。

 携帯電話の契約者数は8749万件から8994万件に増加した一方、1ユーザーあたりの平均的売上を示す「モバイル通信ARPU」は前年比で70円減の年間3980円と下落傾向が続いている。


営業収益は前年比1.3%増の6兆1400億円、営業利益は同4.6%増の1兆1444億円の増収増益(NTTドコモ「2023年度決算及び2024年度業績予想について」)

 通信事業において最も大事なのは「つながりやすさ」だ。今、ドコモは顧客から「つながりにくい」といわれていて、前田社長は就任会見で「通信品質の改善に注力する」と発言している。ただし、ある企業が画期的な技術を開発したとしても、通信を含め機械を介する技術的なものは、時間がたつほど同業他社が追い付いてくることが多いため、均質化されていくことが少なくない。例えば、5Gから6Gに切り替わるころには、すでに各社の通信品質に決定的な差はなくなっているだろう。その環境下で選ばれる携帯電話会社になるには、スマホをプラットフォームとした「コンテンツ力」が重要になる。

 「2000年代から携帯電話が盛り上がったのは多彩なコンテンツのおかげです。『着うた』を始めとした音楽配信など、昔から携帯電話とエンターテインメントとの相性はすごく良かった。エンタメのバリューチェーンとは、興行を含めたコンテンツ制作力も含まれます」

 ドコモは2023年からJリーグと組んで世界のサッカーチームを招へい(関連記事)。試合やイベントの興行主としてのビジネスを始めた。加えてLeminoを通じてプロボクシング4階級制覇王者である井上尚弥選手のタイトルマッチを配信(関連記事)。最近では、国立競技場や愛知県のIGアリーナなどの「箱モノ」の運営を始めるなど新しい試みを続けている。これらのビジネスに乗り出した理由については「魅力的なアリーナを作れば、興行をすると大勢の顧客が集まります。すると、そこに参加したいというスポンサーも出てくるというエコシステムができあがるから」と話す。


Leminoを通じてプロボクシング4階級制覇王者である井上尚弥選手のタイトルマッチを配信(関連記事

 アリーナ数カ所の運営だけでは、価値提供の場が広がらないと感じていたときに、国立競技場の運営についての話が上がってきたという。

 「東京の中心地にある日本のフラグシップスタジアムですから、価値を作り上げる拠点としても大きな可能性があります」

 メジャーリーグベースボール(MLB)では、打球速度や飛距離など、日本の野球中継では視聴者が見られないさまざまな数値も表示されてくる。米国ではこのような新技術を積極的に活用していて、実はドコモもラグビーで似たような取り組みをしているという。

 ドコモは、日本ラグビーフットボール協会、リーグワン、ソニーグループとの合弁会社「ジャパンラグビーマーケティング」に出資参画している。

 「当社とJリーグとの協業のように、海外のクラブチームや代表戦などを主催しようする会社です。ソニーグループさまには、データやモニタリング、センシングなど、技術的な側面も支援していただいています」


ドコモは、日本ラグビーフットボール協会、リーグワン、ソニーグループとの合弁会社「ジャパンラグビーマーケティング」に出資参画(プレスリリースより)

 ボクシング、サッカー、ラグビー、モータースポーツなどでの取り組みを見ると、ドコモはスポーツビジネスに注力しているようにみえる。

 「大事なのは、そこに集うファンとドコモとの関係性の構築です。例えば井上尚弥選手とドコモが一緒にサービスを提供することによって、彼のファンと当社との関係性も構築できます。ファンの方にドコモを利用しよう、応援しようと思ってもらえる可能性が出てくるのです。スポーツとエンタメは当社の戦略的領域なのです」

 だがエンタメビジネスは、ヒットコンテンツが出れば大きな利益をもたらす一方で、ヒットを予測する難しさから「全体としてはもうけにくい」領域でもある。

 「確かに簡単ではありませんね。配信だけでは1人あたりの利益率はどうしても低くなりがちです。川下はマージン率が低いので、規模を広げて全体額を積み上げるビジネスモデルにしています。一方、上流側はマージンが大きいものの、当たり外れのリスクも存在します。ただ、何もやらないと何の変化も起きません。着実に取り組むことが大切です」

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