「辞めた会社に戻りたい」――増える“元サヤ転職”、その魅力と難しさ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
転職経験者の3人に1人が「辞めた会社に戻りたい」と考える――そんな結果が、マイナビの調査により明らかになりました。大手を中心にさまざまな企業でもカムバック制度、アルムナイ採用などの名称で“元鞘雇用”が進んでいます。しかし、元鞘雇用に拒否反応を示す社員もいます。企業はどのように向き合うべきなのでしょうか。
求められる「組織社会化」
それは組織内における自分の居場所を確立するために必要なプロセスである「組織社会化」を成功させることを意味しています。
組織社会化はよく新入社員の適応に対し用いられる理論ですが、転職や再雇用、元鞘雇用でも組織社会化の成功が大きな鍵を握っています。
新入社員の組織社会化の最大の課題が「役割の獲得」であるのに対し、熟練したキャリアでの再社会化は「良好な人間関係の構築」です。
「所詮、出戻り」と陰口を言われないように、一刻も早く自分の存在価値を知らしめたい気持ちは分かりますが、どんな能力があろうとも周囲といい関係がない限り、その能力が生かされることはありません。
一方、新規加入する“出戻り”を受け入れるメンバーたちは「自分たちを大切に扱ってくれるだろうか?」「自分たちにどんな利益をもたらすのだろうか?」「本当に信頼に値する人物なのだろうか?」と不安を感じているので、新参者の一挙手一投足に注目します。
そういった不安を消すには、「私」が動くしかありません。
つい、私たちは人から信頼されることばかりを考えてしまうけど、人は信頼されていると感じるからこそ、相手を信頼する。そして、その人の人間的魅力、価値観、誠実さや勇気、明るさや謙虚さ、やさしさなどを肌で感じると、「力になりたい」「一緒になにかやりたい」と心の距離感が縮まっていきます。
経営に求められるのは「相乗効果を生む」視点
一方、企業側は「“出戻り”を受け入れるメンバーたち」の不安を消し、出戻り社員の組織社会化を促す対策を取るべきです。
具体的に求められるのは、以下の取り組みです。
- 出戻り社員と仕事をすることで期待できるメリットを話し合う
- 出戻り社員のメンター役に若い社員を付ける
その上で、企業のトップは「我が社ならでは取り組み」を考える必要があります。
私が取材したある企業では、新しいプロジェクトを立ち上げ、そこに出戻り組とプロパー組を数人ずつアサインしました。新しいプロジェクトで、前例を気にする必要がないため、出戻り、プロパーに関係なく、目標を達成する必要性に迫られます。
「ポイントは前例がない点です。好き勝手にやっていい。あとは経営側が責任を取ると任せました」(当該企業の社長)
「元鞘雇用=人手不足解消」と考えずに、「相乗効果を生む」ことをゴールに元鞘雇用を続けてください。
どんなにいい新制度を会社が作っても、その制度の恩恵を授かった「人」も、そこで働く「人」も、「変わらない」限り、働く人にとって「良い制度」にはなり得ませんから。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。
2024年1月11日、新刊『働かないニッポン』発売。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「転職は裏切り」と考えるザンネンな企業が、知るべき真実
「お前はどこに行っても通用しない」「転職は裏切りだ」──会社を去ろうとする若手社員に、そんな言葉を投げかける企業がいまだに存在する。そうした時代遅れな企業が知らない「新入社員の3割が辞めてしまう理由」や、「成長企業できる企業の退職者との向き合い方」とは?
「育休はなくす、その代わり……」 子なし社員への「不公平対策」が生んだ、予想外の結果
出生率が過去最低となり、東京都ではついに「1」を下回ったことが大きく話題になっています。結婚や出産を希望する人が、安心してその未来を選べるようにするために、企業ができることは何か。「育児休暇をあえてなくした企業」の事例をもとに、社員を疲弊させない経営戦略について考えます。
人手不足倒産、年間の最多を更新か 労働市場の流動化も影響?
帝国データバンクが調査結果を発表した。
伊藤忠「フレックス制をやめて朝型勤務に」 それから10年で起きた変化
2013年にフレックス制度を廃止し、朝型勤務制度や朝食の無料提供の取り組みを始めた伊藤忠商事。それから約10年が経過したが、どのような変化が起きているのか。
「退職者は裏切り者」と考える企業が、採用にもつまづくワケ
優秀な人材に選ばれる企業であり続けるため、企業はどう変わっていくべきなのだろうか? ワンキャリアの寺口さんは、「情報をオープンにすべき」と話す。その理由とは?

