「育休はなくす、その代わり……」 子なし社員への「不公平対策」が生んだ、予想外の結果:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
出生率が過去最低となり、東京都ではついに「1」を下回ったことが大きく話題になっています。結婚や出産を希望する人が、安心してその未来を選べるようにするために、企業ができることは何か。「育児休暇をあえてなくした企業」の事例をもとに、社員を疲弊させない経営戦略について考えます。
過去最低――。いったい何度この4文字を繰り返せば、この国は本気になるのでしょうか。はい、そうです。出生率、そして少子化対策についてです。
先日、1人の女性が産む子どもの数の指標となる出生率が1.20となり、統計を取り始めて以降最も低くなったと報じられました。数カ月前に、韓国の出生率が「1」を切った! と大騒ぎしてましたが、ついに東京都でも0.99と「1」を下回りました。
メディアは「もう待ったなしだ!」と危機感を募らせていますが、待ったなしだろうと待ったありだろうと、今の少子化対策で子どもが増えるわけがありません。これまで日本が進めてきた「少子化対策」は、いわば“結婚十訓”の現代変形版のようなもの。
1994年に最初の総合的な少子化対策である「エンゼルプラン」をまとめ、2002年9月に「少子化対策プラスワン」を打ち出した際に、「男性を含めた働き方の見直し」や「地域における子育て支援」なども含めて、社会全体が一体となって総合的な取り組みを進めていこうと提言したのに、一向に働き方も社会も変わりませんでした。
「低賃金だから結婚しない」 若者のリアル
結局「産めや、増やせや、お国のために! ひとつよろしく!」と、若い女性たちに圧をかけ続けているだけ。その影響もあるのでしょう。若い女性たちの半数が「結婚をした方が良いとは思わない」と答えるありさまです。
日本経済新聞が実施した調査で「結婚はした方が良いと思うか」に、「思う(そう思う・少しそう思う)」と回答した人は51.5%。年齢別に見ると、40代以上では約7割が肯定的なのに対し、20代30代は5割未満です。性別では、女性の方が低く、30代女性では「そう思う」はわずか9%。たったの9%です(2022年11月22日付日本経済新聞朝刊「縮小ニッポン、私たちの本音 男女1000人アンケート 『結婚良い』20・30代、半数切る」より)。
また、上記の調査で「結婚が減っているのはなぜだと思うか」の問いには、「若年層の収入・賃金が低い」が6割超でトップでした。
メディアでは「賃金アップ!」「若手ほど手厚く!」などと景気のいい話題ばかり報じられていますが、非正規雇用への対応はスルー。
さらに「男性の育児休暇取得率をアップしよう!」との声ばかり聞こえてきますが、非正規雇用の場合、女性でも育休取得率はわずか28.8%です。しかも、この数字には「出産で離職した女性」は含まれていません。
「マッチングアプリ」やら「婚活イベント」やら「恋愛を語る会」やらをするのも結構ですが、「結婚したくてもできない状況」にも手を打つべき。それをせずして「若者たちが結婚したくなる“かもしれない”戦略」を続けるのは「結婚したくてもできない人たち」の排除です。
「少子化対策」と銘打つのであれば、蜘蛛(くも)の糸を張り巡らせるように「産める社会」を構築する必要があるはずです。政府が増やしたいのは「正社員の子」だけなのでしょうか。
「賃金が高く、休みも自由に取れ、リモート勤務もできる、恵まれた企業」だけなのでしょうか。
そもそも結婚観や夫婦のカタチが変わってきているのに、「子を増やす」=「とにかく結婚!」という思考回路のまま動き続けているのです。異次元の少子化対策の正体もぼやけたまま時計の針だけが進み続けています。
となんだか苦言のオンパレードになってしまいましたが、“子どもをなんとしてでも増やしたい熱”が全く感じられないのです。非正規雇用問題にも手をつけず、選択的夫婦別姓も認めず、婚外子の議論も行われていません。婚外子にはさまざまな意見があるのは重々承知していますが、議論のテーブルにも載せないのはいったいなぜなのでしょう。
少子化対策という美しい言葉を使った「票集め」だけが行われている。少子化は国の問題なのに、「妻、夫、夫婦」という個人の問題に矮小化されている。そう思えてなりません。
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