そのシニア像、もう古いかも? シニアマーケの新常識「令和シニア」とは
日本は超高齢化社会を迎えている。シニア像はさまざまな移り変わりを見せるが、近年存在感を増しているのが「令和シニア」だ。シニアマーケの新常識になるかもしれない、その実態に迫る。
現在、日本は65歳以上の人口割合が2023年時点で29.1%と過去最高、国民の3人に1人がシニアとなる世界一の超高齢化社会となっており、この傾向は加速しています(参照:総務省統計局「人口推計調査」)。
その中で70代のシニア世代におけるスマートフォンなどのデジタルデバイス所有率は8割を超えており、他の世代の利用率に近付きつつあります(参照:モバイル社会研究所「70代のスマホ所有率さらに増加し8割を超える」)。また、60代でのインターネットの利用率も他の世代に近付いているとの調査結果も出ています。
こうした変化の背景には、新型コロナウイルスの流行や高年齢層に向けたデジタルデバイスの普及が考えられます。日常的にインターネットを活用するシニア世代は前期高齢者を中心に「令和シニア」と呼ばれ、いま注目を集めています。
本連載では、博報堂DYグループのデジタルマーケティングに関わるナレッジやリソースを集約した「デジタルコア」として、さまざまなクライアント企業の課題に向き合ってきたHakuhodo DY ONEの令和シニア研究所が、イマドキのシニア=「令和シニア」の実態に迫ります。
「超高齢化社会」で生き残るための、シニアマーケの新常識
日本は2007年より65歳以上が21%以上の人口比率を占める「超高齢化社会」となり、その比率は2023年時点で29.1%と過去最高、国民の3人に1人がシニアとなるシニア大国となっています。この巨大マーケットの現状をきちんと把握し、シニアの動向を常にハックし続けることが、今後の販促活動において重要な生き残り戦略の鍵となります。
日本市場におけるマジョリティとなったシニア世代をあらためて捉えてみると、世の中の変化に対応し続けてきた世代と言えます。
彼らが社会に出た10年後の1990年代にはインターネットが普及し始め、2000年代にはインターネットの普及率は70%を超えました。仕事においてもある程度のパソコン操作が求められ、定年が迫ってきた頃には年金受給も繰り上がるなど、働き方や収入における常識も大きく変化してきました。
その影響から、前期高齢者においては現役世代と同様とまではいかないものの、定期収入を得ながら余暇を過ごす人が多くみられるようになりました。そのため、他人から見られる意識・健康意識などは現役世代と同様に、強く持っている傾向にあります。
一方で、シニア層をターゲットとしたマーケティング活動において、こうしたコミュニケーションの潮流を捉え切れていない企業が多いように感じます。今でも現役であり続ける世代に対し、「第一線を退き、お茶の間でのんびり余生を過ごす」といった従来のシニア像を描き、アプローチしてしまっていることもあるのではないでしょうか。
今回の連載を通して、既成概念に捉われないイマドキの令和シニア像をお伝えしつつ、令和シニアに刺さる新しいアプローチ方法を模索していきます。
Z世代と類似? 超高齢化社会のキーパーソン「令和シニア」とは
旧来のシニアと令和シニアの大きな差のひとつが「デジタル利用のハードル」だと考えています。
過去にも「アクティブシニア」と呼ばれる消費活動の盛んな高齢者層は存在していました。しかし、年金制度の変更に伴い、定年後も働かざるを得ないのが現在の高齢者層の実情です。現在では、資産を切り崩すのではなく、毎月一定の収入があり可処分所得で消費行動をする割合が増えました。
その中で、新型コロナウイルスの流行によりシニアのスマートフォンなどのデジタルデバイス所有率は8割を超え、他の世代と利用率を比較しても、ほぼ変わらないという結果が出ています。
シニア世代が連絡手段や情報収集にSNSを利用するようになったことで、もともとデジタルネイティブである若者とディテールは異なるものの近しい感覚を持つようになりました。その結果、年齢や年代間での好みや価値観の違いが少なくなるインサイトやライフスタイルの「消齢化」(※)、現象が進んでいるのではないかと考えられます。
(※)「消齢化」「消齢化社会」は株式会社博報堂の登録商標です
従来のアクティブシニアとは異なり、日常的にインターネットを活用する、特に前期高齢者を中心とした新しいシニア世代は「令和シニア」と呼ばれています。現在、この層において消齢化現象に当てはまる事例が多く出てきています。
令和シニアのデジタル事情
令和シニアは、新型コロナウイルスの流行や高齢者のスマートフォン所有率の増加に伴い、日常的にインターネットやSNSを活用するようになってきています。実店舗での買い物はオンラインショッピングに、外食は配食サービスに置き換わり、オンラインでの購買行動が一般的になりました。また、シニア層は感染リスクが高いこともあり、若年世代以上にオンラインへの移行を余儀なくされていました。
またSNSにおいても、自己開示・相互交流の場として令和シニアのSNS利用率は年々増加傾向にあり、女性は「LINE」「Instagram」、男性は「メール」「Facebook」「X」の利用が多くなっています(参照:モバイル社会研究所「シニアのメール・SNS利用 LINEがメールを初めて上回る」)。
さらに、国内では50代以上を対象にしたSNS「趣味人倶楽部」が2019年時点では会員数34万人、2024年現在では会員数36万人を突破しました。日記やフォト(写真投稿機能)を通じて同じ趣味の人と知り合い、旅行やスポーツなど趣味のコミュニティを通じて会員同士で新しいコミュニティを形成し、イベントなどで直接対面することもあります。
海外でも同じ傾向がみられます。米国のStitch社は50歳以上の中高年を対象にしたSNSサービスを提供しています。安全な通信環境や利用者認証の仕組みのもとで、グループ活動(映画、外食、ハイキングなど)や旅行仲間、友情、ロマンスなど、利用者が求める目的に応じたマッチングが可能となっています(参照:みずほリサーチ&テクノロジー「海外スタートアップが狙う世界の高齢者市場」)。
令和シニアはZ世代化している?!
デジタル接触に対するハードルが低くなっている令和シニアは、エンタメ、レジャー、ゴシップなどの情報収集をSNSなどのデジタル上で行う傾向がみられます。可処分所得に余裕があることから、自分の容姿や趣味に投資する行動が増えるなどの態度変容もうかがえます。
令和シニアのこれらの傾向はミドル世代にはみられないものである一方で、Z世代などの若年世代との共通項が意外に多く、特にエンタメ・レジャーなど余暇にかかわる部分でZ世代と近しい検索行動をとることが分かっています。
これらの行動の変化から、令和シニアは「Z世代化」しているのではないか? その結果、「グランフルエンサー」のような存在が出現し、今後この動きは消齢化に伴って加速するのではないか? と令和シニア研究所は考えています。
多様化した令和シニアのトレンド事例
令和シニアとZ世代の共通項について、実際に例をいくつか見てみましょう。
・SNSで発信する「グランフルエンサー」などのシニアインフルエンサー
おしゃれな服装や日常の様子を、Instagramを通して発信する「グランフルエンサー」をはじめ、趣味や仕事のスキルを生かした情報発信を行うYouTubeクリエイターなどが注目を集めています。YouTubeチャンネル「もののはずみ」は登録者数7.8万人、「ひろちゃん農園」は20万人を超えており、Instagramでコーディネートやレジャーの発信をする「bon・pon」が89万人以上のフォロワーを獲得するなどの支持を集めています。
・シニアキャラクターでコスプレデビュー
コスプレ衣装を手作りしてイベントで披露したり、孫と一緒に写真を撮ってSNSで発信したりと形はさまざま。コスプレのテーマとなる漫画やアニメなどは、Z世代と変わりません(参照:ねとらぼ「『男性の老人キャラはいい役が多い』 60歳でコスプレデビューした“亀仙人”から学ぶ、いつまでも趣味と人生を楽しむ方法」)。
・アイドルやスポーツ選手を孫と応援する「推し活」
好きな歌手やK-POPアイドルなどを応援する、いわゆる「推し活」。孫とともに同じ「推し」を応援するために、イベントに参加したり、積極的にグッズを購入したりするシニアが増えています。
・平均年齢65歳以上のeスポーツチーム結成
「孫に一目置かれたい」という動機から、eスポーツを生活に取り入れるシニアも登場。eスポーツの選手は10〜20代が平均と言われるなか、チームメンバーは結成時66〜73歳までの男女8人、平均年齢は69歳のシニアプロeスポーツチームが結成されるといったニュースも。シニアのプロチームが結成されるだけでなく、60歳以上限定の大会も実施されるようになるなど活発な動きもみられています(参照:電ファミニコゲーマー「平均69歳のシニアプロeスポーツチーム「マタギスナイパーズ」が発足。『フォートナイト』で目指すは“孫にも一目置かれる存在”」)。
このように従来のシニア世代では考えられなかった活動が多岐にわたってみられており、これら「Z世代化する令和シニア」の解像度を上げていくことが、これからのシニアマーケ攻略の近道となると考えています。
まとめ
超高齢化社会のなか、60歳以上のシニア世代は働くことは当たり前、スマートフォンを使いこなし、体の衰えはあるものの、いつまでも「現役」でいたいと願うインサイトを持っています。仕事をしながら趣味にお金をかける姿は、Z世代と類似しています。
このイマドキのシニア像をHakuhodo DY ONEでは「令和シニア」として、既存のシニア像とは区別して捉えています。これからのシニア層へのマーケティングは、令和シニアの解像度を上げていくことが必須になりますので、本連載では引き続き深堀っていきます。お楽しみに!
著者プロフィール:令和シニア研究所 山口真由
Hakuhodo DY ONE 第一クリエイティブ本部 第三クリエイティブ局 山口部 部長
D2C業界に特化した広告代理店のディレクターを経て、2016年アイレップ(現 Hakuhodo DY ONE)に入社。入社後は化粧品・健康食品・旅行・金融業界など50代以上をターゲットにした商材・サービスを中心にプランニングと制作を担当。大学在学中に訪問介護員2級養成研修課程(ホームヘルパー2級)修了。
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