「自分で考え、動ける社員」を作る──リコーは何をしているのか(3/3 ページ)
「リコーは2020年にOAメーカーからデジタルサービスの会社になると宣言している」――リコーの長久良子CHROは、自社の人的資本戦略に変革が必要になった理由をこのように話す。リコーが2020年から進めてきた、自律的に考えて提案できる社員を育む人的資本戦略と、見えてきた課題感とはどのようなものか。
リコーではコロナ禍に入る前から、働き方改革の一環としてリモートワーク制度を導入し、2020年7月にはそれを標準の働き方とした。
当初は「My Normal」として、どこでいつ働いても良いとしていたが、それではチームとして機能しないこともあったため、現在では「創ろう! Our Normal」をスローガンに掲げ、コミュニケーションを取れるようチームごとに働き方を決めてもらうようにした。
リコーの働き方改革では、自分で自分を管理してパフォーマンスを向上させる必要がある。その結果、社員の自律化が進み、マネジャーも自分の役割の変化を自覚するようになり、最終的に会社のカルチャー変革を加速させられる。そして、それがこの働き方変革の狙いでもあるのだ。
人事システムを刷新し「デジタルサービスの会社」としての存在感をアピール
こうした改革の一環として、リコーは人事システム「COMPANY」を導入した。人事システムのリプレイスを決めたのは、それまで利用していた人事基幹システムの保守期限が迫っていたこと、また10年近く改修を繰り返していたためシステムでカバーできない部分が多く手作業が発生していたこと、リコーが進めている変革に柔軟に対応できなかったことなどが理由だった。
新しいシステムに求めたのは「データ利活用」「柔軟性」「効率化」「Fit to Standard」「Global」の5つだ。
グローバル企業で人事基幹システムを導入するに当たり、考えなければならないことがいくつかある。それは法規制の異なる国ごとにシステムを導入する「地域別管理モデル」にするか、国内は国内で、海外は海外で導入する「日本と海外の分離モデル」にするか、どの国においても同一のシステムを導入する「グローバル・ワン」にするかという問題だ。
リコーグループでは、「地域別管理モデル」を取り入れることにした。海外から国内へ、また海外間での人流が非常に少ないこと、また各国で法規制が異なることや各地域で運用されている人事基幹システムがあり、契約期間が残っていること、またシステムを統一することやオペレーション統一の難易度に対してアウトカムが釣り合っていないことなどが理由だ。
自社で柔軟にシステムを更改できること、また法改正などにスピーディーに対応できることからクラウドの3製品をピックアップし、100以上の項目で検討した結果、COMPANYを選んだ。長久氏は「兼務や出向など日本企業なら日常茶飯事のことに対応すること、IT部門の手を借りず人事部だけで扱えるUIなどが決め手になった」と言う。
導入後には「Fit to Standard」、つまり自社の業務プロセスをできる限りシステムの標準機能に合わせるという取り組みを行った。その一例が「異動発令業務」だ。
これまでは異動発令業務に出向元と出向先、それぞれの承認や審査などというリコーグループにカスタマイズされたプロセスがあり、時間も手間もかかっていたが、システムに合わせ、異動情報を入力するだけで発令として登録されるようになった。これにより、年間5100時間の工数削減が可能になったという。
最後に長久氏は、今後の展望を次のように話した。
「デジタルサービスの会社になったからには、社内で実践をしなければならない。それは人事というバックグラウンド業務でも同じだ。人事部門内でもDXを進め、デジタルへの対応力を高めることで土台をしっかりとさせてケーパビリティを拡大していきたい。
異なる基幹システムを使っている国や地域のデータを効率的に収集して開示できるようにしたい。とはいえ、開示することが目的ではない。データからビジネスにつなげられるように、人事がデータで経営の意思決定に貢献できるような仕組みを作っていきたい」
本講演後の9月12日、リコーは希望退職を募集すると発表した。まずは10月から来年2月末までに国内グループ企業で1000人を募る他、将来的には海外グループ企業でもさらに1000人の削減を図る。
主力事業をデジタルサービスの提供へと転換させる中、人材面では人員の適正化と、自律的人材の育成の両面で改革を進める構えだ。
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