タイミーはなぜ「THE 赤提灯プロジェクト」をやったのか? 広報活動の本質的な役割とは(4/4 ページ)
企業経営の根幹の一つである営業活動に広報がどのように“効く”のか。タイミー社の取り組みから「経営に効く」広報活動の具体例を紹介します。
「BX部」を立ち上げたタイミーの事例
事業成長につながる広報活動を行う企業事例として、タイミー社の取り組みを紹介します。
タイミーはスポットワークのプラットフォームを提供する業界最大手の企業です。2024年4月時点で登録者数が770万人、7月には東証グロース市場への上場も果たすなど、大きな注目を集めています。
タイミーには元々社内にメディアと関係構築をするPR、行政・政府に働きかけるGR(Government Relations)、そしてマーケティング部門が存在しました。
しかし当時は、それぞれの部門が部分最適化した行動をとるにとどまっていました。そこで2021年、限られたリソースで各活動を最大化できるように、新たにBX(Brand Experience)部を立ち上げました。
BX部の活動のゴールは、同社のミッション「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」を踏まえ、ユーザー及び潜在ユーザーにタイミーを利用することで人生の可能性が広がった、広がりそうだと感じてもらうことです。そのための一貫したブランドコミュニケーションを担う部門としてBX部を設立しました。
BX部には、(1)メディア対応をはじめ危機管理、対外的な情報発信を管理するPRチームと(2)ブランドマーケティングを担当する Branding(以下BR)チームが存在します。
BRチームは、タイミーが「ミッションを体現する会社だ」と感じてもらうためのプロジェクトの推進や、オウンドメディア「タイミーラボ」の企画運営、SNSの企画運営、ブランディング広告施策、コミュニティー運営などを担当しています。
「THE 赤提灯」プロジェクトでミッションを体現
BRチームが2023年5月に行った「THE 赤提灯」というプロジェクトは、アルバイト全員がスポットワーカー(タイミーユーザー)で構成された居酒屋を実際に立ち上げるというものでした。
タイミー上で掲載されている求人の中には未経験者が応募できないものもあります。「THE 赤提灯」で未経験者が働けば、その実績を次の仕事につなげられます。まさに「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げる」という同社のミッションを体現したといえます。
この施策では、まずBRチームが上記のようにミッションを体現するプロジェクト(事例)を作り、PRチームが「人手不足」「未経験だと働きづらい」といった飲食業界の課題を踏まえ、スポットワーカーだけで店舗運営が可能である点をメディア向けに訴求して取材を誘致しました。結果、業界の課題解決になり得る斬新な施策としてメディアから多くの取材を受け、タイミーが伝えたいメッセージをステークホルダーに届けることに成功しました。
こうしたBX部の活動は評価しづらそうに見えますが、各施策が実際の事業数値(アプリDL数、事業者数など)にどの程度貢献しているのかをシビアに判断しているそうです。「タイミーに○○という印象を持っているか」など特定の項目についてユーザー、潜在ユーザーの認知、理解度をブランド調査で測り、どの指標が事業数値に影響を与えるのかを細かく把握して部門の評価を行っているとのことです。
タイミー社のBX部門のアプローチは、メディア露出を追うだけの広報活動とは一線を画し、ミッションの実現を事業拡大に有機的に繋げています。企業成長を見据えた広報活動のモデルとして参考になるのではないでしょうか。
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