ソニー入社を「後悔するなら、すぐに辞めなさい」 創業者から受け継ぐ“不変の思想”:【前編】徹底リサーチ! ソニーの人的資本経営(2/2 ページ)
ソニーといえば、何の会社か? 答えは無数にありそうだ。多様な事業は、多様な人材から生まれてきた。どのような人材戦略を掲げているのか。
求めるのは「同調」ではなく「異見」
奈良: 先ほどお話しいただいたように、本当に「個」を尊重するというソニーグループの思いが人材理念や人事戦略に色濃く反映されていますよね。この考え方や文化は創業時からのものでしょうか?
岩崎: はい、1946年にソニーの前身となる東京通信工業を井深大と盛田昭夫が設立した時から不変のものとして語り継がれてきた思想です。
奈良: 私も本で読んだ「ソニーに入ったことをもし後悔することがあったら、すぐに辞めなさい。人生は一度しかないのです」という盛田氏の言葉に衝撃を受けた覚えがあります。
岩崎: 当社では新入社員の入社式でこの話をします。その言葉の続きは「そして、本当にソニーで働くと決めた以上は、お互いに責任があります。 あなたがたも、いつか人生の終わりを迎える時が来ます。そのときに、ソニーで過ごして悔いはなかった、と思ってもらえることを願っています」となっています。
初日にこの話をすることに驚かれるかもしれませんが、こういった所からも会社と個人が対等な関係でい続けるという文化が定着しているのだと感じます。
奈良: 経営を取り巻く環境が時代によって変わっていく中、変わらないソニースピリットを感じますね。ソニーグループは創業約80年と長い歴史をお持ちですが、時代が移り変わる中で新しく出てきた考え方や文化はございますか?
岩崎: 当社の業績が思わしくなかった時代に前CEO平井一夫が「異見」を取り入れる重要性を説きました。
異なるバックグラウンドを持った人や考え方を持った人が集まることによって、ソニーのターンアラウンドの推進と事業再生を実現していくという事を打ち出していましたね。
多様な人材がいるからこそ新しい事業が生まれ、事業が多様化することで成長の幅が広がり、また多様な人材を引き寄せるという考え方です。
変革を繰り返し、困難を乗り越えていくために必要なのは「同調」ではなく「異見」なんですよね。ビジネスの競争の中で、当社が持続的に成長するために大切な思想として社内に浸透しています。
奈良: こういった思想や文化をベースに人材戦略を進めてこられたのですね。少し踏み込んだご質問をさせていただきますが、創業時より「個」を重視する文化や理念がある中、長い歴史の中で業績が良い時とかんばしくない時、波もあったかと思います。
また、2012年以降平井社長が着任されてからも事業再編が多かったと記憶しています。
事業を再編する際に、人材の異動や退職などを促さないといけない局面もあったのかなと思うのですが、社員の成長と企業の成長の両立が難しい局面をどのように乗り越えられてきたかについて教えていただけますか。
岩崎: まず前提として、企業理念や企業文化というものは代々受け継がれているものであり、変えてはならないものと経営陣もわれわれ人事も認識しており、厳しい局面において、どのように「個」を重視し寄り添うかを重視してきました。
不況に限らず事業の競争力を高め続けるために、時代や状況に合わせて形を変えないといけないものは必ずあるので、「個」を重視するという部分は変えず社内公募やキャリアプラス、ソニーユニバーシティなど、個や企業の成長に貢献する施策をその時々で実行してきたという感じです。
奈良: 厳しい局面でも文化や思想は変えず、その状況に適した人事施策を実行してこられたのですね。
9月25日(水)公開の中編「『社内公募』続けて約60年 ソニーが新たに編み出した、経営人材の育成法とは」では、具体的な人事施策に関して聞いた。
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