「セクハラ被害で起業を諦める」論争、問題点はどこか? 深刻な二次被害も:働き方の「今」を知る(3/3 ページ)
女性起業家が告発したセクハラ被害について、SNSで議論が巻き起こった。議論の問題点はどこにあるのか? 二次被害も発生する深刻な実態を紹介する。
セクハラに特徴的な「二次被害」の存在
本来セクハラは「他者を不快にさせる性的な言動」という加害行為に焦点を置いて定義されるものだ。しかし世間一般では「本人が不快に感じなければ/本人が被害を申し出なければ許される」といった解釈にすり替わって浸透している傾向もみられる。
それにより、実際に会食の場で腰に手を回されて不快だと感じたとしても、「〇〇さん別に嫌ではないよね?」と軽い同意を求めることがセクハラを正当化することにつながっているとの被害者証言も存在する。
セクハラにおいては「それくらい我慢したらいい」といった被害者側に忍耐を要求するような議論ではなく、「そもそも絶対的に許されない」という、加害者側の責任を問う議論を展開するべきであろう。
さらに、男性側が無頓着になりやすい論点として「ポスト・セクハラ問題」もしくは「セカハラ問題」という二次被害の存在がある。具体的には、セクハラ被害を訴えたり、社内で相談したりした被害者に対して、さらに次のような二次被害が実際に存在し、被害者の精神的ダメージがさらに増幅する事態が発生しているのだ。
- 「露出度の高い格好をしているほうが悪い」「自分から誘ったのではないか」「セクハラされるほうにも問題がある」「その場できちんと断れば何もなかったはず」など、被害者なのに責められる
- 「あの人がそんなことをするはずがない」「証拠がない」など、被害があったこと自体を信じてもらえない
- 「上司に内密に相談したのに、後日社内全員がセクハラ被害のことを知っていた」「セクハラ被害が知れ渡り、社内で好奇の目で見られるようになった」といったプライバシー侵害
- 「被害者なのに自分だけ異動させられた」「加害者である上司にセクハラ通報が知られ、評価を下げられた」といった報復人事
- 「あまり大きな声でセクハラ被害を訴えないほうがいい」「セクハラで辞めたなんて言わない方がいい」といった口封じ的アドバイス
これらはいずれも、被害者が意を決して、また相手を信頼してセクハラ被害を相談したにもかかわらず、当の相談相手がセクハラを軽視し、もしくは「臭いものに蓋をする」かのような対応を取ったことによる「セカンドハラスメント」であり、プライバシー侵害や個人情報漏洩、報復人事に至ってはさらなる不法行為にも該当する重大な権利侵害である。
これらの問題を見て見ぬふりをし、抑圧していることこそ問題の根源といえる。セクハラ被害者が、もう二度とセクハラを受けるような環境に身を置きたくないという意思を持って堂々と伝えられるような価値観への転換がなされるべきであろう。
著者プロフィール・新田龍(にったりょう)
働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役
早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。「労働環境改善による業績および従業員エンゲージメント向上支援」「ビジネスと労務関連のトラブル解決支援」「炎上予防とレピュテーション改善支援」を手掛ける。各種メディアで労働問題、ハラスメント、炎上トラブルについてコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。
著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)、最新監修書『令和版 新社会人が本当に知りたいビジネスマナー大全』(KADOKAWA)発売中。
11月22日に新刊『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)発売。
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