「生成AI×RAG」の効果と課題は? 実装しないと「競争力を保てない」これだけの理由(2/2 ページ)
生成AIの普及によって、外部情報の検索を組み合わせて回答精度を向上させる「RAG」(検索拡張生成)は、IT業界のトレンドになっている。ただ、実際にRAGをどのように活用すればいいのか理解している企業は多くない。今後の「生成AI×RAG」の展望や効果、課題をサイオステクノロジー社長に聞いた。
開発費用と工数は半分 2人でやっていたことが1人でできるように
生成AIを活用しやすくするシステムさえ構築できれば、企業の生産性は著しく上がる。具体的にどんなことができるようになるかを聞くと、まずは「時間の節約」だという。喜多社長は「例えば、ある製造業の会社が、過去に開発したAという技術に関する特許を参照したいとします。ただ実は、過去の情報を探すのは意外に大変なのです。しかしRAGが実装できれば、それが簡単に見つかります」と胸を張る。他の使い方もあるという。
「ある技術をベースに、新たな『製品B』を開発するにあたり『必要とされる要素技術は何ですか?』という質問が可能です。『こうした方がいいんじゃないか?』というようなアドバイスももらえます。助言するのは、生成AIの強みです」
一般的に日本の経営層はITのリテラシーが低いと言われがちだ。生成AI×RAGの良さを彼らに知ってもらう必要がある。
喜多社長は「今、私たちのソフトウェア開発の現場は、GitHub Copilot(コーディング中にAIがコードのプログラマーに対して提案をしてくれる機能)を使っています。エンジニアに『感覚的な数値で工数はどのくらい減ったのか?』を尋ねると、25〜50%と言うんです。実に半減しています」と驚きの回答をする。
「RAGが入ることによって、実行できることが増え、かつ精度も上がる。これがRAGの強みです。工数が半分になるという意味は、2人でやっていたことが1人でもできるようになることです。単純に10億円かかっていた開発費用なら、5億円になるという話なのです。これは劇的な変化だと思います」
これだけの違いが出るならば、RAGを実装できた企業とできない企業とでは、競争力に歴然たる違いが生まれるといえるだろう。
LLMを開発するよりRAGを導入したほうが効率的
具体的にどの業界にこのシステムは向いているのだろうか。村田エグゼクティブマネージャーは「いくつかのパターンの想定ができています。現在の生成AIでは、公開されている情報をベースにしていますから、逆に公開情報が少ない業界に向いているともいえるかもしれません。例えば、外に出せない情報を多く持っている製造業、金融、証券などはRAGの利用価値が高いと考えています」と話す。
とはいえ、生成AI×RAGにおいてもLLMの性能が低ければ、自然な言葉での回答が期待できない。
「LLM自体をファインチューニング(微調整)していくアプローチを取る企業はありますが、新しい情報が出るたびにLLMをバージョンアップさせていては、エンジニアリングのリソースが回らないでしょう。そのポイントポイントでLLMをバージョンアップしつつ、新しい情報については常にRAGの方で検索できるようにしておくのがよいと考えます」
常時LLMを微調整する場合、LLMに対して必要な情報をそろえ、それをトレーニングさせ、そこから結果が正しい情報がどうかをテストして……といった長いプロセスが必要になるという。
村田エグゼクティブマネージャーは「LLMの開発は大変な一方、RAGを使うことによって問題を解消するという期待値が高まります。RAGは利便性が高く、精度を上げることが比較的、簡単にできるのです」とLLMに対するRAGの優位性を語った。
企業は、すでに自社にとって最適なソフトウエアを従業員に使ってもらっているはずだ。もし使い勝手が悪かったりするとシャドーIT(企業・組織において、管理部門の許可がなく使われる情報システムやソフト、クラウドサービスを利用すること)のリスクが発生する。「シャドーITを使うことで、本来、外部に対して、秘匿しなければいけない情報が出てしまうのです」(村田エグゼクティブマネージャー)
「生成AIは使えない」と思われるのを防ぐ
インタビューの中で村田エグゼクティブマネージャーは、生成AIにネガティブな印象を持たれることを懸念していた。
「ハルシネーションがあることによって『生成AIは使えないね』と判断されないようにする必要があります。RAGを使って、間違った情報を減らす仕組み作りは欠かせません」
コロナ禍で、世界と比べるとDXが遅れていたことが明らかになった日本企業。生成AI活用は、その後れを取り戻す大きなチャンスといえる。RAGのビジネスは、想像以上に日本の競争力維持に関わるものとなりそうだ。
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