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自治体の「DX推進計画」が失敗するのはなぜ? 評価指標を生成AIで正しく設定する方法(1/3 ページ)

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 こんにちは。自治体のデジタル化をサポートしている川口弘行です。

 自治体では9月議会が終わると、来年度当初予算に向けた事務作業が本格化します。筆者は、ある自治体ではCIO補佐官(非常勤特別職)として職員を鼓舞しながら、適正な予算要求と調達に向けた準備を進めています。一方、別の自治体に対しては事業者として参考見積依頼やRFI(情報提供依頼書)への回答を行う立場にあります。

 その上、この時期に地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が主催する「地方自治情報化推進フェア」(通称:J-LISフェア)にも毎年出展しているため、その準備も含めて忙しく過ごす毎日です。

 筆者はデザインのセンスに乏しいため、当日の展示ブースに彩りを添えるために、生成AIを使った画像をパネルやポスターに使うことが増えてきました。


生成AIを使った画像

 この画像の真ん中は権利処理がされたモデルの写真です。両端の画像は真ん中の写真をもとに生成AIで作成した画像です。自治体の現場でも、生成AIの活用場面として「イラストの生成」が案外多いようで、意図に沿った画像を生成してくれるのが魅力です。

 前回は「自治体業務をいかに効率化・高度化するか」という目標に向けて、マネジメント視点とテクノロジー視点の両面からアプローチすることで、生成AIの真の価値を引き出すことができるということを解説しました。

(関連記事:自治体の生成AI活用術 DXのための具体的ステップとは?【プロンプト例あり】

 生成AIの技術は日々進歩しているのですが、自治体にとって一般的なサービスであるLGWAN-ASP(総合行政ネットワーク上で稼働するサービス)は、その進歩に追いつけていません。その結果、我慢して乏しい機能の生成AIツールを使い続けているケースを多く見てきました。

 現時点で筆者からできるアドバイスとしては、「事業者との契約、特にLGWAN-ASPの利用契約は通年契約にせず、可能ならば月単位で解約できるようにしておく」ということです。良いツールがあれば、いつでも切り替えられる余地があることが望ましいです。

 我慢は生成AIへの失望のきっかけとなります。予算に応じた機能を追い求めていくために、どんどんツールを変えていくことをおすすめしたいところです。


自治体の「DX推進計画」が失敗するのはなぜ? 写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:川口弘行(かわぐち・ひろゆき)

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川口弘行合同会社代表社員。芝浦工業大学大学院博士(後期)課程修了。博士(工学)。2009年高知県CIO補佐官に着任して以来、省庁、地方自治体のデジタル化に関わる。

2016年、佐賀県情報企画監として在任中に開発したファイル無害化システム「サニタイザー」が全国の自治体に採用され、任期満了後に事業化、約700団体で使用されている。

2023年、公共機関の調達事務を生成型AIで支援するサービス「プロキュアテック」を開始。公共機関の調達事務をデジタル、アナログの両輪でサポートしている。

現在は、全国のいくつかの自治体のCIO補佐官、アドバイザーとして活動中。総務省地域情報化アドバイザー。

公式Webサイト:川口弘行合同会社、公式X:@kawaguchi_com


「DX推進計画」が失敗するのはなぜ?

 さて、今回も前回に引き続き、生成AIを活用して、自治体のDX推進計画を見直してみましょう。

 多くの自治体がDX推進計画を策定していますが、当初の計画期間が終了に近づいており、計画の評価や次期計画に向けた見直しの時期を迎えています。

 ただ残念なことに、当時の計画策定時に「計画進捗や達成をどのように評価するのか」という視点が欠けているものがあり、いざ評価しようとすると、できなかった言い訳を考えたり、ひどい場合には評価のモノサシを歪(ゆが)めたりして、計画が全て順調に進んでいるかのように見せようと努力している自治体もあります。

 どうしてこのような計画になってしまうのでしょうか? 理由は簡単です。

  • 自治体を取り巻く、外的・内的な環境が変化する、という前提になっていない
  • 「だれも未来に対する答えなど持っていない」という現実を理解していない

 次期計画に向けた見直しのタイミングで、評価しやすい、そして行動しやすい計画へと転換していきませんか?

「ビジョン」と「行動計画」を区別する

 自治体の計画における大きな転換ポイントは「変えてはいけないもの」と「変えていくべきもの」を明確にすることです。

 まず「変えてはいけないもの」を、ここでは「ビジョン」と呼ぶことにします。前回の記事では、WHY(なぜやるのか)という言い方で説明したものです。

 計画期間中(一般的には3〜5年間)において普遍的な「ビジョン」を掲げ、関係者(職員、市民)の合意を得ておくことが大切です。

 もし、現在の計画でビジョンが掲げられていなかったのならば、計画見直しのタイミングでビジョンを再定義する必要があります。そのため、前回の記事では現在の計画の文面を生成AIに読み込ませ、AIとディスカッションをすることで、本当は掲げたかったビジョンを言語化する手法を解説しました。

 そして「変えていくべきもの」を、ここでは「アクションプラン」(行動計画)と呼ぶことにします。前回の記事ではWHAT(何をやるのか)、HOW(どのようにやるのか)という呼び方で説明しました。

 実はアクションプランそのものは、どの自治体も計画の中に記しています。しかし、ビジョンを掲げ、ビジョンを達成するために、アナログ、デジタルにかかわらず、あらゆる手段を駆使する取り組みであることを明確にしているところは少ないです。したがって、筆者が関与する自治体では、アクションプランはどんどん内容が変わっていきますし、常に代替案(プランB、プランC)を準備してあります。

 逆に、ビジョンなきアクションプランを掲げた計画は、硬直化して評価に苦しむことになります。評価に苦しむ計画は次のような特徴があります。

  • アクションプランが単なる「やることリスト」の羅列になっている
  • アクションプランが固定されていて、変化に対応できない
  • 目標達成に難があるアクションプランを掲げている(その多くが国が一方的に掲げている目標だったりする)
  • 自分たちが制御できない成果に対して、コミットさせられている

 どこかの市長の歌ではありませんが「何をやっても叱られる」ような計画の評価など、誰もやりたくありません。その結果、計画は形骸化し、できれば風化させてフェードアウトすることを望んだり、評価の時点までに異動により自分がその担当を外れることを望んだりするわけです。

 自治体の中には「計画だと評価しないといけないので、誰も傷つかないように『方針』とか『指針』のようなふんわりしたものに留めておく」というところもあります。

 これではもったいないと感じます。なぜなら、計画の評価は職員を罰するためにあるのではなく、ビジョン達成に向けて改善や方針転換を促すための仕組みなのですから。

 アクションプランの進捗や達成を定期的に評価し、達成状況に応じてプランBやCに切り替えるのか、取組方法を修正するのかという積み重ねを愚直に行うことが、結果としてデジタル変革の近道なのではないかと考えています。

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