「2030年までに完全自動運転車」 テスラ追う新興チューリングの戦略は?:NTTグループも支援(2/2 ページ)
完全自動運転車の開発を進めているスタートアップのチューリング。NTTグループ2社と協力し、いかにして米テスラなどに渡り合っていくのか。その戦略に迫る。
「『大』が『小』に勝つとは限らない」
山本CEOは、開発方法への許認可の必要性についての質問で「将来のAIを作っていくときに、これまでのルールベースでやっていく考えは持っていない。開発するに当たって、(官公庁など)関係者の方には話はしている」と指摘。同時に、許認可を待っていては開発スピードが落ちてしまい、ライバルに先を越されてしまうという認識を示している。
過去の事例を振り返って「大きな組織が小さな組織よりも強かったわけではないです。Teslaに見られるように、必ずしも資金力の大きい会社が勝つわけではなく、資金調達力で決まるわけではありません。必要なことは、AI開発によりみられるように(経営者として)進む方向性をビビッドに示すことが大事だと思います」と強調した。
印西市にデータセンターを稼働
自動運転を可能にするためには、膨大なデータを即座に処理できるようなデータセンターが必要になってくる。チューリングは千葉県印西市にデータセンターを稼働させている。記者がセンターを訪問した時には、心臓部にはNVIDIAのGPUがずらりと並んで、実用化に備えてセンターが既に試験的に稼働していた。装置を稼働させると、かなりの熱が発生するため、装置を常に冷やすクーリングシステムも完備していた。
セキュリティが厳重で、入口では写真付きの身分証明書の提示を求められた。入構からサーバルームにたどり着くまで、カードキーでの解錠や生体認証も含め、複数のセキュリティゲートを設けている。収集したデータの漏洩(ろうえい)には特別に気を使っているようだ。
トヨタも動いた NTTと提携
ほぼ同じタイミングでトヨタ自動車も、AIを使った交通事故防止に向けた開発基盤を開発するためにNTTと提携した。自動運転のAI基盤を作る点でも連携する。日本を代表する大企業が手を組むことになった。このように各社が自動運転の実用化に向けて動き出している。
トヨタとNTTは2030年までに5000億円を投資するとしており、どこまで実用化に近づけるか注目される。中でも期待されているのが、NTTが社運を賭けて開発している次世代通信基盤「IOWN」(アイオン)と呼ばれる先端通信技術だ。
これまでの銅線を使った電気通信を、光を使った通信に置き換える画期的な技術で、最大の特徴は、大容量のデータを高速送信できる上に、消費電力が圧倒的に少ない点にある。まさに通信のゲームチェンジになり得る技術として開発の行方の視線が集まっていて、自動運転の実現に活用できれば、ブレークスルーにつながるだろう。
自動運転には段階に応じて、レベル1〜5までが定められている。日本では2023年に改正道路交通法により、「レベル4」まで解禁された。現在、部分的に運転が自動化できる「レベル2」までの車が販売されている(トヨタのアルファード、プリウス、ホンダのヴェゼル、日産のアリアなど)。その上のレベルが、条件付きで運転が自動化されているのが「レベル3」で、特定の条件ではシステムが運転操作を行う。
「レベル4」の高度運転自動化になると、システムが全ての運転操作を行い、ドライバーの関与が一定区域以外では必要なくなる。「レベル5」は完全自動運転で、システムが全ての運転操作を行い、ドライバーはいらなくなる。ハンドル、ブレーキ、アクセルなどが不要になり、運転席自体が不要になるのだ。
日本の先端技術力の底上げに
自動運転車が登場してくると、運転手がいない車になるため、車の概念が根底から変わることになる。しかもチューリングのような新興ベンチャーが、規制をあまり意識せずに、カメラ認証技術と生成AIの最先端技術をフルに活用して完全自動運転車を世に出そうというのは大きな夢のある話だ。
ITやAIで遅れを指摘されてきた日本企業が、世界で注目される自動運転技術で存在感を発揮できれば、日本の先端技術力の底上げにもつながる。しかも1社だけの力でなく、AIも含めたデータ送信分野に強いNTTグループの支援を受けている。複数企業が協力し合う形で新しい技術に挑戦しようとする方法自体も、新技術を開発していく上でのモデルケースとなる可能性がある。
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