スッキリしない「年収の壁」議論 「103万円の壁」だけを取り上げる違和感:働き方の見取り図(2/3 ページ)
「年収の壁」をめぐる議論が後を絶たないが、どこかぼんやりとして実像がつかみきれない。103万円だ106万円だ130万円だ――と、ゾンビのように現れる年収の壁をクリアになるように整理する。
年収の壁は「税金」「保険」「手当」の3種類
そして、もう一つ実像を分かりにくくしている原因が、制度自体の複雑さです。年収の壁は何種類も存在し、それぞれ上限となる金額も違えば、影響を受ける対象範囲も影響の内容も異なります。まず、年収の壁には大きく分けて「税金」「保険」「手当」の3種類があります。さらに、それぞれに異なる条件が設定されています。
税金には、住民税と所得税があります。住民税の目安は年収100万円です。所得税は本人が課税対象となる103万円以外にも、配偶者側の税金控除額に影響が出る150万円や201万円などがあります。
保険は、いわゆる106万円と130万円とがある社会保険です。106万円は月額8万8000円を年額に換算すると約106万円になることからそう呼ばれます。厳密には年収の壁ではなく月収の壁です。一方、130万円は年収条件なので文字通り年収の壁です。他にも、106万円の壁の場合は厚生年金に加入することになり、130万円の壁は国民年金に加入することになるといった違いもあります。
手当は、扶養に入っている人から見て配偶者側が勤める会社から支給されるお金です。妻が扶養に入っているのであれば、夫が勤める会社から夫に対して支給されます。家族手当や配偶者手当などと呼ばれますが、名称は会社ごとに異なります。また、支給条件は対象者の年収が103万円以内であることが多いものの、やはり会社によって異なります。
下図は、これらを表にしたものです。他にも、対象者が一般の扶養親族か特定扶養親族か老人扶養親族かで所得税の控除額が変わったり、納税者自身の所得額によって配偶者特別控除の額が変わるといった観点なども加えると、年収の壁はさらに細かく複雑に分かれます。
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