トップの役割が変わる──エクサウィザーズ社長が語る「AI時代のリーダー論」(2/2 ページ)
AIプラットフォーム事業やAIプロダクト事業などを展開するエクサウィザーズは、2025年3月期で創業以来初めて通期黒字化を達成する見通しだ。ディー・エヌ・エー元会長で創業者の春田真社長に、エクサウィザーズがAIによって目指す未来の姿について聞いた。
「しんどい社会」にならないようにしたい
exaBase 生成AIの活用が広がりを見せている分野に、自治体の窓口や、企業のコールセンターなどの問い合わせ業務がある。住民や顧客からの問い合わせに対して、生成AIが適切な回答を出してくれる。全て自動で行うのはまだ難しくても、担当者の心理的な負担は大幅に軽減されるという。
「自治体の窓口業務や企業のコールセンターなどは、人の確保と応対のクオリティーの担保が課題になっています。そこで生成AIの活用が進んでいますが、対外的な自動化には至っていません。それは、生成AIが出した回答が99%あっていても、1%間違っただけで怒られるからです」
「ただ自動化までしなくても、質問に対してふさわしい回答を生成AIが一瞬で出す使い方であれば、担当者の心理的な負担は軽減されます。扱いが難しい顧客に対しても、自分の言葉ではない文章を淡々と読めばいいので、落ち着いて対応できるでしょう。担当者の教育もかなり楽になると思います」
エクサウィザーズでは現在、昭和大学や金沢大学と連携して、AIが会話を分析することで認知症を早期発見できる技術を開発中だ。1分ほどの会話の音声をAIに分析させることで、認知機能が低下していないかどうかを判定する。ソフトウェア医療機器としての認可を受けて医療機関への提供を目指していて、2026年の実用化を見込む。春田氏はこの技術が、患者本人や早期の治療につなげたい医療機関に加えて、金融機関にとっても課題の解決につながると考えている。
「金融機関からは、認知症の患者さんと金融商品を契約して、後からもめるケースが増えていると聞いています。しかも、患者さん本人も認知症だと自覚していないことが多いようです。AIによって早期発見し治療ができれば、こうしたトラブルは少なくなるでしょう。ある課題の解決が、予想もしていなかったさまざまな現場に結び付くことは十分考えられます。その技術が使われるように、どのように仕立て直すかが、私たちの仕事です」
また、テクノロジーや生成AIの進化は、組織の在り方も変えていく。情報収集のスピードが上がり、状況をリアルタイムで把握し、組織で共有することは容易になった。生成AIが分析まで実行して、取るべき手段を示してくれる。一方で意思決定の方法が、現場から上司に情報をあげて、トップが決めるといった従来のままになっている組織は多い。春田氏は組織で上に立つ人の役割を考え直す時期に来ていると指摘する。
「上長の役割は何なのかを、あらためて考えなければならない時期に来ていると思っています。もちろん、機械が全てを決めることには、受け入れられない部分もあります。人間は必ずしも合理的に判断するわけではなく、気持ちがどう動くのかも判断に影響します。それに、論理的に正しくても、それだけで決めると組織がギクシャクするのではないでしょうか」
「だからこそ、テクノロジーが進化する中では、AIなどによるサポートを得ながら、責任を取れる人が必要になります。おそらくトップの役割は大きいですが、今より小さくなっていくでしょう。その際にトップは、自分の付加価値が何かを常に意識しなければならないと私自身も思っています。テクノロジーが全てとは思っていないので、しんどい社会にしないように、今後も技術と向き合っていきたいですね」
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