顧客は“安いモノ”にもクオリティーを求める 店舗急増中、無人ジム経営者が語る「成功の秘訣」:「多拠点経営」大解剖(2/2 ページ)
深刻化する人手不足の中、複数の店舗や窓口を持つ企業は多くの苦労を抱えている。人手が増えない中、オペレーションを均一化し、提供するサービスの品質を保つためにはテクノロジーの力が欠かせない。今回は筆者が現在経営している24時間フィットネスジム「LifeFit」における多拠点経営のポイントを紹介する。
顧客は“安いモノ”にもクオリティーを求める
実際に100店舗以上を見据える店舗数を経営をする場合、そのクオリティーをどうコントロールして安定化させるかは、非常に重要だ。読者の皆さんは、多拠点で経営するブランドで、たった一店舗で起きた不祥事で評判を落とし、顧客を失ってしまったニュースを見聞きしたことがあるだろう。
実際に私が月額2980円〜の無人型ジムを経営してみて感じるのは「価格が高いサービスはお客さまの目が当然厳しく、クオリティーが非常に重要である。一方で、LifeFitのように市場において低価格なサービスを提供する場合においても、クオリティーの高さを求められる」という事実である。
例えばフィットネスジムに置き換えると、清掃が行き届いていて常に清潔であることや、マシンがしっかりとメンテナンスされていて常に使える状態にあることなどが求められる。実際に、LifeFitに入会いただいたお客さまにヒアリングをすると、「以前通っていたジムは安かったが、清掃があまり入ってなくてやめた」「マシンが壊れたまま1カ月以上使えなかったからやめた」などという声が聞こえる。
低価格化が進む市場では、どうしてもこういった細部へのケアがコストカットの対象になりがちである。ただし、事実としてコストが安かったとしても顧客には「Un-negotiable needs=絶対に何があっても妥協できないクオリティーニーズ」があるのだ。
少ない店舗数ならまだしも、店舗数が増えた際に、その市場におけるUn-negotiable needsを正しく把握することは経営において非常に重要である。
立地は命 データに基づいた出店分析
当たり前のことではあるが、店舗ビジネスにおいて立地は最重要事項である。
筆者は過去にメーカーやソフトウェア事業を経験しており、店舗ビジネスは今のフィットネス事業が初めてとなるが、これまで立地の重要さを思い知らされてきた。
LifeFitでは、データに基づいた出店分析を実施している。
過去の出店実績によって蓄積された顧客データから、商圏範囲、つまり集客が可能な範囲を立地タイプ別で推測できる体制を取っている。
また、過去実績から導き出される市場占有率と、競合他社や国勢調査データとの掛け合わせと地理的要因の商圏バリアを分析することで、その立地自体のもつ集客力を見通すことができている。
また、先述したドミナント戦略による認知向上は、複数店舗での集客成果の方が大きい結果となっている。
ただし、多拠点におけるドミナント戦略は、単に近隣で出店すればよいというわけではない。特定エリアに、過度に集中して出店をしてしまった場合、自社競合を生む。各店舗の収益性は下がり、単独店舗としての利益は低下する。新規出店時には、自店舗の商圏範囲を正しく把握し、既存店とのカニバリゼーションを回避した立地に出店することが重要である。
今回は実際に私が実践している多拠点経営についてお話ししてきた。今後、複数の店舗・事業展開を検討している方々に学びがあればうれしく思う。
筆者プロフィール:小林幸平(株式会社FiT取締役)
京都大学大学院医学研究科卒業後、 日本ロレアル株式会社に入社。新規ヘアケア製品ノーシャンプーのプロダクトマネジャーとして新製品の開発および販売戦略立案を担当し、同製品は楽天市場総合ランキング1位を獲得。その後デジタル・イーコマースにおけるマーケティング責任者として事業拡大戦略の立案と推進に取り組んだのち、2019年8月よりメイベリンニューヨークのアジアヘッドクォーターにてリージョナルマーケティングマネジャーとしてビジネス統轄を担う。その後、2021年2月よりノバセル株式会社の執行役員として同社事業を牽引。現在は株式会社FiT取締役。
合同会社スモールミディアムCEOとして、D2Cブランドの経営も行う。
公式noteはコチラから。
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