ジョブ型移行で求められる「会社依存」からの脱却 自立するための3つのヒント(1/2 ページ)
ジョブ型雇用への移行が進み、会社と個人が対等な契約関係になると、個人は自立したマインドの確立が求められる。しかし、決して容易ではない。自立したマインドを育てるための3つの方法とは――。
近年、日本企業において、職務内容を限定して採用する「ジョブ型」の人事制度への移行が進んでいます。さらに、最近ではジョブ型ではなく、スキルを中心に人事管理を行う「スキルベース制度」という考え方も注目されており、これまでの日本企業の主流であった、業務内容や勤務地などを限定しないメンバーシップ型雇用からの脱却が今後、ますます進んでいくと思われます。
ジョブ型の制度が普及することで、賃金の決まり方、配置転換の仕組み、採用の方法など、多くの面で変化が起きるでしょう。中でも私が最も根本的だと考える変化は、ジョブ型などの導入に伴って「会社と個人の関係性が変わっていく」ということです。
著者プロフィール:塩見康史(しおみ・やすし)
株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー。
クラシック音楽の作曲家として長年活動。自身の芸術分野での経験をビジネスに応用し、創造的な社会と組織をつくる支援をライフワークとしている。
主に人事分野において、教育体系構築、採用戦略策定、人事制度策定等を実務で経験、さらに創造的な組織文化醸成に積極的に取り組んだ。
スコラ・コンサルトでは、人事課題をはじめ、組織開発、ミッション・ビジョン・バリュ−策定、戦略ビジョン構築など、経営課題の全般にわたり、本質的な経営課題をあぶりだすアプローチを得意とする。共著に『わたしからはじまる心理的安全性』(翔泳社)。
人は自由が増すほど不安を抱え、権威や規範に依存したくなる
ジョブ型では会社と個人が対等な契約関係になります。メンバーシップ型では、個人は会社に従属し、どんな仕事をするか、どんなキャリアを歩むか、勤務地までも会社が決めていました。しかし、ジョブ型では業務内容や報酬、勤務地などを、双方の合意によって取り決めた上で働くことになります。
このことは、これまでメンバーシップ型になじんできた多くの人にとっては、より「自立したマインド」を育てなければならないということを意味します。会社と個人の関係がフラットになるならば、自分がどのような人生を望み、どのような仕事やキャリアを歩みたいのかを、まず自分自身で考えることが求められます。
このような流れは、個人にとって大きなメリットをもたらす可能性があります。これまで会社からの指示を受け入れるしかなかった状況から、自分で選択し、自分で決めることがしやすくなるからです。自己選択は自己実現へとつながります。
一方で、自立したマインドを育てることはそれほど簡単ではありません。人は「自分で決めること」に対する恐れを持つことがあるからです。
エーリッヒ・フロムの名著『自由からの逃走』では、そのメカニズムが説明されています。フロムは、人は自由が増すとともに孤独や不安を抱え、逆に何かの権威や規範に依存したくなるといいます。人生やキャリアの自己選択の自由が広がるということは、孤独や不安と向き合いながら自分自身と対峙することをも意味するのかもしれません。
この「自分と向き合う」ということは、メンバーシップ型雇用が当たり前であった時代にキャリアを積んだベテラン世代には、なかなか難しい課題のようです。「24時間戦えますか」というテレビCMがあったように、会社のためにがむしゃらに働いてきた世代は、愛社精神が高く、会社への帰属が自分自身のアイデンティティとなっているケースも多いのです。そして、そのことが定年後の「生きがいの喪失」に結びついているともいわれます。
一方で若い世代は会社に対する忠誠心はそれほど強くないかもしれません。かといって若い世代の人が自立したマインドを持っているかというと、それは疑問です。最近は学校でも個性を伸ばす教育が重視されていますが、SNSなどの発展により、逆に周囲との調和を過度に重視し、自己主張や周囲と違うことを恐れる傾向も見られます。「自分探し」に悩む若者が多いのも、自分自身に対する確信の弱さが背景にあるのかもしれません。
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