「営業しない営業」で売上が伸びる? 元キーエンストップ営業が語る、新時代の営業の本質(3/3 ページ)
「営業しない営業」という新たな考え方が注目を集めている。なぜ営業をしない営業が求められるのか。コンサルティング会社カクシンのCRO兼エバンジェリストで、キーエンスで営業ランキングトップの実績を上げた経験を持つ天野眞也氏が解説する。
「特長」から「利点」へ 主語を顧客にした提案が成功のカギ
さらに天野氏は、営業提案において「特長」と「利点」を明確に区別することの重要性を説く。営業提案で陥りやすい失敗は、「私たち」や「自社」を主語にして「特長」だけを話してしまうことだという。
「例えば『洗浄力が高い洗濯機です』という説明は特長でしかない。これを『共働きで子どもが小さいご家庭でも、夜に安心して洗濯乾燥ができる静かな洗濯機です』と説明すれば、お客さま視点の『利点』になる」
では、この考え方を実践するとどのような提案になるのか。天野氏は管理職研修の提案を例に挙げて説明する。
「2000万円の管理職研修を営業すると過程する。『月1回開催で期間は6カ月間。2000万円で管理職にとって大事なことが学べます』と説明しても、おそらく成約は難しい。しかし、『この研修で、御社の年間残業代10億円を4億円削減できます。つまり、2000万円の投資で3億8000万円の利益を生み出せるのです』と提案すれば、価値が明確になる」
失敗の8割は不戦敗 「営業しない営業」を実現する3ポイント
ここまで、現代の営業の勝ちパターンを解説してきたが、負けパターンを知っておくことも大切だ。天野氏は、営業の失敗の多くが「不戦敗」、つまり戦わずして負けているケースだと指摘する。
「営業の失敗の8割が『不戦敗』だ。これは製品やサービス、コストで負けたのではなく、知らないうちにお客さまが競合製品を購入してしまうケースを指す。お客さまが必要とするものを、必要なタイミングでお届けすることが重要なのだ」
かつての営業は「顧客に買わせる」という意識に基づき、熱意と根性で押し切るスタイルが多かった。しかし、これからの営業に求められるのは、顧客が欲しがるものとタイミングを熟知し、個人のメリットを押さえつつ、投資の視点で提案できることだ。
これらが天野氏の提唱する「営業しない営業」の本質だ。では具体的に、どうすれば「営業しない営業」を実践できるのか。実現には「観察眼」「戦略眼」「情報力」の3つのエッセンスが重要となる。
1つ目のエッセンスは「観察眼」だ。まず自社の強みを見極める必要がある。
競合にはできない自社だけができること、顧客が必要としているもの――これらはバリュープロポジションという。顧客ニーズと、自社だけが提供できる価値が何かを見極めることから始めよう。
多くの人は「うちの商品は他社と同じ」と考えてしまいがちだが、天野氏は「何とかひねり出していく」ことが重要だと強調する。
2つ目は「戦略眼」だ。これは、顧客の目標達成に向けた道筋を立てる視点を指す。顧客が目指すゴール、つまり利益や成功を理解し、そこから逆算して戦略を立てることが非常に重要となる。
そして3つ目の「情報力」について、天野氏は特に詳しく解説した。
「情報力を構築するために、私は『組織情報』『担当情報』『案件情報』『工程情報』の4つのリストの作成を推奨している。特に案件情報ではお客さまの予算を、工程情報では各チームや組織、部門による商品・サービスの制作プロセスを理解することが重要だ」
この情報力を高めるもっとも効果的な方法として「ファン」の存在がある。ファンとは、契約や決済に関係なく情報を提供してくれる人を指す。どうすればファンを増やせるのか。天野氏は以下のポイントを挙げる。
1. より多くの顧客と会い、気の合う相手を見つける
2. 共通の趣味や関心を持つ人を紹介してもらう
3. 視覚を重視したコミュニケーションを行う
4. 顧客に寄り添う「二人三脚スタイル」を実践
5. SNS、ウェビナー、YouTubeなど、多様なチャネルでの情報発信
6. SaaSツールを活用した顧客情報の整理と適切なアプローチの実施
「DX時代の今だからこそ、お客さまとの関係性が希薄になりがちだ。だからこそ、『営業しない営業』を通じて、お客さまとの関係づくりを楽しんでほしい」と天野氏は締めくくった。
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