JR西日本の技術を「お売りします」 展示会で見た、監視カメラやバーチャル駅:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
JR西日本が12月5〜6日、JR西日本グループの総合展示会「2024 Innovation & Challenge Day」開催。技術革新と新たな挑戦を掲げ、鉄道会社の枠を越えてさまざまな社会課題を解決しようという試みだ。前編となる今回は、印象に残った展示を通してイノベーションのヒントをお届けする。
- 「鉄道車両家具の販売」
会場には、見覚えのある家具も展示されていた。JR西日本の観光車両「West Express 銀河」で使われているソファベッドだ。出展はJR西日本テクノス。鉄道ファン向けに鉄道車両の座席や布地をグッズ化する例はいくつかあるけれども、ここでは注文生産の開始が発表された。「普段鉄道車両で利用されているものを日常生活にお使いいただきたい」がコンセプトだ。
1号車のファーストシートをオマージュした「1人掛けソファー」、6号車の個室プレミアムルームのベットをオマージュした固定式「3人掛けソファー」、4号車フリースペースをオマージュした「リビングテーブル」「サイドテーブル」のほか、「クッション」「スツール」「タイルカーペット」がある。いずれも注文生産で布地は実車と同じ素材を使い、カラーは8色を用意している。
パンフレットには、West Express 銀河のコンセプト「多様性」「くつろぎ」「カジュアル」をオマージュした家具と紹介されているけれども、私が注目した部分は小さく書かれた「鉄道用難燃(なんねん)処理」だ。鉄道車両に使用される材料は厳しい難燃基準に合格したものだけ。それは国鉄時代からの歴史の中で、凄惨(せいさん)な列車火災事故を経験し、改善を重ねてきたからだ。このJR西日本テクノスが販売する家具は鉄道ファン向けだけではなく、高層ビルやタワーマンション、地下街などにも適している。ここはもっとアピールしても良いと思う。
JR西日本テクノスの「本業」は鉄道車両の保守、延命改良工事、部品の新製、技術開発、車両工場の設備など、鉄道車両に関する業務だ。同社は国鉄時代に「太陽工業」という社名で誕生した。JR西日本発足後は国鉄から継承した電車を延命させて長持ちさせる工事を続けており、そのノウハウの蓄積が技術を向上させた。
こうした技術は他の鉄道会社、特に中小私鉄にとってもありがたいはず。公式Webサイトでは近江鉄道300形の先頭車化、北陸鉄道向けの東京メトロ03系短編成化を紹介している。
イベントタイトルの「Innovation & Challenge」を直訳すれば「革新」と「挑戦」。このタイトルでは研究開発の実績発表会という印象だが、実際に来てみれば、ただ見せるだけではなかった。「私たちが培った技術を外販します」という明確な意図があった。
後編は「技術の外販」につながる講演を紹介する。
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