JR西日本が描くイノベーション外販の未来、デザイン思考から働き方改革まで:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
JR西日本が12月5〜6日に開催した同グループの総合展示会「2024 Innovation & Challenge Day」は、技術革新と新たな挑戦を掲げ、さまざまな社会課題を解決しようという鉄道会社の枠を越えた試みだ。後編となる今回は、3つの講演を通して鉄道会社の未来を考えてみたい。
- 「JR西日本の働き方改革 Work Smile Project」
JR西日本 デジタルソリューション本部の講演と実例紹介。JR西日本は2021年度に「Microsoft 365」を導入し、全社員に向けた働き方改革に取り組んだ。社員それぞれがもつ創意工夫や「がんばる」「なんとかする」という精神論に頼らず、部署ごとにツールを開発して業務環境を改善する取り組みだ。外部のエンジニアではなく、技術を持ち運用する社員が自ら開発する強みがある。
コミュニケーションツールとして「Microsoft Teams」を紹介していた。社員全員にIDを発行し、日々の報・連・相だけではなく、例えば台風接近の時、被災状況、列車の遅れ、事故の情報を共有する。固い業務連絡だけではなく、やりとりの中で部門長が最前線の社員にグッドジョブマークを付け、現場の社員からハートが返ってくるという、コミュニケーションの取りやすいリラックスした雰囲気がつくられた。
興味深い実例として、敦賀駅の乗り換え手配の情報共有がある。2024年3月に北陸新幹線が敦賀駅まで延伸した。いままで京阪神から金沢、富山へ向かう人は、敦賀で在来線特急のサンダーバードと新幹線を乗り換える必要がある。乗り換え時間は最短8分、1回の乗り換えで最大800人が乗り換える。これは通常時に計算された乗り継ぎ時分だ。
しかし在来線のダイヤは気象状況によって乱れやすい。特に琵琶湖西岸の湖西線は強風の影響を受けるし、緊急手段として琵琶湖東岸の北陸本線経由に変更する場合もある。こういうとき、列車指令から接続に関係する乗務員、駅員などへ一斉に情報を伝える必要がある。
従来は運転状況を把握する列車指令が、関係するエリア隣接箇所の列車指令、乗務員、駅員にそれぞれ接続列車などの情報を伝えていた。駅では乗客案内係や、窓口に情報を伝え、払い戻しや接続列車の変更に対応する。これらを電話や列車無線で何度もやりとりしていた。しかし敦賀駅の規模では到底間に合わない。そこでダイヤ改正前に、現場社員によって「近畿金沢乗り継ぎワーキングチーム」を結成し、ダイヤ乱れに対応する通知機能を社内向けアプリとして実装したという。
現業の合間のアプリ開発は激務だったと予想する。しかし、実装すれば業務効率化によって負担が減る。現場で自分たちが使うアプリの開発は、保線関連部署などでも行われている。現在は生成AIを活用した業務マニュアル参照や機械の故障対応支援にも取り組んでいるそうだ。
JR西日本という、広範囲で従業員数も多い会社で、IT専門部署だけではなく、現場でも自由なアプリ開発を促進する。これは鉄道というよりITの分野で注目すべきことかもしれない。
「Innovation & Challenge Day」は、とても情報量が多く、気付きの多い内容だった。ただ、イベント名が抽象的すぎて、内容が伝わりにくい印象を受けた。せめて「Technology」「Business」の文字があれば関心を持つ人が多いだろうと思った。
いずれにせよ、鉄道周辺の技術とビジネスに関心を持つ人ならば必見のイベントだ。そのことは、この記事で伝えられたと思う。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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