JR西日本が描くイノベーション外販の未来、デザイン思考から働き方改革まで:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
JR西日本が12月5〜6日に開催した同グループの総合展示会「2024 Innovation & Challenge Day」は、技術革新と新たな挑戦を掲げ、さまざまな社会課題を解決しようという鉄道会社の枠を越えた試みだ。後編となる今回は、3つの講演を通して鉄道会社の未来を考えてみたい。
- 「グループ一体となったイノベーション活動の展開」
JR西日本 デジタルソリューション本部の若手数人による発表会。グループ会社から選抜されたチームが、社内で培った技術を外販する目的で活動している。展示会場にあったmitococaもこのグループの「商材」だ。事務や技術などそれぞれの専門分野を問わず、チームの誰もが自社の技術を外販するプロジェクトに参加している。
例えばJR西日本テクノスは社内向けに車両の延命化、再生、改造を行っている。このノウハウを使って、新車導入が難しい鉄道会社に対し、中古車両を改造した車両の導入を提案している。
象徴的な商品は「踏切ゲート-Lite」で、踏切用の簡易な手動式遮断機だ。歩行者用の小さな踏切を渡るとき、歩行者自身が強化プラスチック製の遮断機を持ち上げる。これで、歩行者は「線路を渡る」ことを認識して、左右確認を促される仕組み。
鉄道の踏切には「警報器と遮断機」がある第1種と、「警報器のみ」の第3種、「標識のみで警報器も遮断機もない」第4種がある。かつては保安係が常駐する第2種があったけれども、現在はない。この中で事故が多いのは第4種。しかし警報器は列車接近センサーの設置も含めてコストが大きい。地方私鉄では騒音苦情から警報器を設置できない踏切もあるという。
そこでJR西日本は「踏切ゲート」を開発した。これは遮断棒が水平方向に動く方式で、自転車でも押し開けて通行できる。踏切ゲート-liteは人の通行に限り、遮断棒を持ち上げて使う。これらをローカル線の第4種踏切に設置したところ、踏切事故がなくなったという。JR西日本が課題を解決したモノは、他の鉄道会社でも受け入れられるはず。かくして技術畑の社員たちは営業に転じた。その苦労話も面白かった。
果たしてこれがどれだけの市場規模か、利益を生み出せるかは未知数だ。私も分野は異なるけれど、売り込みの苦労はよく分かる。営業は失敗の連続で心が折れることもあるだろう。しかし、登壇者のはつらつとした様子には、社会に役立つモノやサービスをつくっているという喜びが見える。それは働くモチベーションを上げると思う。JR西日本の狙いはこちらにあるのかもしれない。
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