自転車と歩行者の衝突をゼロに 東京・狛江市が編み出したユニークな解決策とは?:ナッジで変わる人・まち・企業(1/2 ページ)
東京都狛江市では、駅前で歩行者と自転車の衝突事故をなくすため、自転車の利用者に「おしチャリ」を促そうとナッジの手法を取り入れました。その結果、どのような効果がうまれたのでしょうか?
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昨今、行政の現場では「ナッジ」(nudge)と呼ばれる行動経済学の考えを生かした政策手法が注目を集めています。
ナッジとは「そっと後押しする」という意味で、頭ごなしに禁止するのではなく、人々が自然によりよい行動を取れるように手助けする手法です。
東京都狛江市では、駅前で歩行者と自転車の衝突事故をなくすため、自転車の利用者に「おしチャリ」を促そうとナッジの手法を取り入れました。その結果、どのような効果や変化がうまれたのでしょうか? 回答者は、同市企画財政部 未来戦略室長の銀林悠さん。
Q.取り組みの概要は?
狛江市の「おしチャリナッジ」Pjは、小田急線・狛江駅周辺を歩行者中心の空間にしていくために「自転車の押し歩き」(おしチャリ)を推進するプロジェクトです。
2023年8月に、狛江駅周辺の公共空間(道路上)で、市の職員と地域のデザイナーで組成したPjチームが、2週間の“おしチャリナッジ”の実証実験を行い、この間で一定の成果が見られたことから、2024年4月からは社会実装に移行しています。
Q.始めた経緯は?
狛江市は、高度経済成長期から、ベッドタウンとしての発展に伴う急速な人口増により、歩行者と自転車の交通量が増えてきました。特に、狛江駅周辺では、歩行者の間をすり抜けるように通行する自転車も多く、過去に歩行者と自転車の衝突事故も発生していました。
この状況に対し、市では、これまで「ボラード」(車止め)や「サインボード」で自転車利用者への啓発を行ってきましたが、2022年に狛江駅前の商業施設の大規模リニューアルが決定し、それと歩調を合わせる形で、市としても狛江駅周辺を歩行者中心の“ウォーカブル”な空間にすることを決定したことで、より実効性の高い歩行者の安全対策が課題となっていました。
そのため、狛江市の“顔”となる狛江駅前にふさわしい空間として、禁止や罰則を強調することなく、自然な形で自転車利用者の行動変容を促していけるよう、ナッジを活用した自転車の押し歩き(おしチャリ)をPj化して取り組むこととなりました。
Q.どんな変化や効果があった?
2023年8月に実施した実証実験では、まず、これまで道路上にあったボラードやサイン看板をすべて撤去したうえで、前半の1週間で、ベンチ・植栽と視認性の高い白線を設置し「自転車利用者への直接的なアプローチ」による、自転車の通行抑制の実証を行いました。
続いて、後半の1週間では、「空間形成によるアプローチ」として、歩道上のベンチ・植栽の周りに本棚を設置し、「本を介したコミュニケーションが広がる広場としての空間形成」による実証を行いました。
この2週間の実証実験期間中の観察調査で、自転車利用者がこのエリアに入る直前に自然と自転車を降りるという行動変容が確認でき、あわせて、この間の「おしチャリ率」(※)も、43.3%(実証前)から90%以上(実証期間中)に上昇し、数字の面でも効果を確認することができました。その後の定期的な調査でも、概ね80%以上のおしチャリ率を維持しています。
(※)自転車を伴った通行者全体のうち、自転車の押し歩きで通行している人の割合
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