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入社3年以内の若手が辞める「3つの症例」 アサヒ飲料「2年目リフレクション研修」の威力Z世代の若手社員の離職を防ぐマネジメント(1/2 ページ)

社歴「1〜3年目」におけるオンボーディングのポイントを解説するとともに、アサヒ飲料の「2年目リフレクション研修」を紹介していきたい。

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著者情報:小栗隆志(おぐり たかし)

株式会社リンクアンドモチベーション フェロー。

1978年生まれ。2002年、早稲田大学政治経済学部卒、株式会社リンクアンドモチベーション入社(新卒一期生)。人事コンサルタントとして、100社以上の組織変革や採用支援業務に従事。2014年、パソコンスクールAVIVAと資格スクール大栄を運営する株式会社リンクアカデミー代表取締役社長就任。17年、株式会社リンクアンドモチベーション取締役に就任し、経営に携わる。23年より現職。同年、株式会社カルチベートを創業。近著に『Z世代の社員マネジメント 深層心理を捉えて心離れを抑止するメソドロジー

 入社前に期待していたほど、仕事が面白くない……。第二新卒で採用してもらえる今のうちに転職しようかな……。

 入社1〜3年目の新入社員は、「入社前の期待」と「入社後の現実」のギャップが離職理由になりやすい。厚生労働省の調査では、大卒新入社員の入社3年以内の離職率は32.3%と、非常に高い水準になっている(厚生労働省|新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)」を公表します)。

 第2回でお伝えした通り、オンボーディングを通じた「一体化」には5〜10年程度の時間がかかる。今回から、社歴を「1〜3年目」「3〜5年目」「5〜7年目」に分け、それぞれの時期におけるオンボーディングのポイントを解説するとともに、企業の取り組み事例を紹介していきたい。

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入社3年以内の若手が辞める「3つのパターン」とは?(写真提供:ゲッティイメージズ)

入社1〜3年目(スタートアップ期)の特徴とは?

 入社1〜3年目の「スタートアップ期」は、慣れない言葉や慣習など、組織・仕事の文化になじみきれていない時期だといえる。この時期は、「入社前の期待」と「入社後の現実」のギャップから離職に至る人が少なくない。要は、「思っていたのと違った……」ということだ。離職を防ぐためには、スタートアップ期の新入社員が陥りやすい3つの症例への理解が重要だ。

Meaning(意味)不足

 仕事に意味(Meaning)を感じられず、やる気を喪失してしまう症例だ。期待を抱いて入社したものの、実際に働いてみると、思っていたほど仕事が面白くない。「やりたいことと違う……」という心の声が大きくなっているのが1つ目の症例だ。

 この症例に陥っているときは、仕事内容にミスマッチを感じるだけでなく、上司や同僚との関係性がうまくいっていない場合も少なくない。「個人人格」で気の合う仲間とだけ付き合っていれば良かった学生時代と違い、会社に入ると「組織人格」としての役割演技力が求められるようになる。このシフトがうまくできず、個人人格と相容(あいい)れない振る舞いを求められることに辟易(へきえき)としている新入社員は多いはずだ。

 Meaning不足に悩まされている新入社員は、まず「職場の異動希望」という形でアラートを発するようになる。上司としては、「あと1年くらい頑張っていれば、仕事が面白くなってくるぞ」と言いたいところだろう。しかし、「タイパ」重視のZ世代は、短期でも成果や満足を得ることを求める傾向にある。「1年も我慢するぐらいなら、他社に行ったほうがいい」と転職を選ぶ人は少なくない。

Value(評価)不足

 仕事の評価(Value)に対する納得感がないために、やる気を喪失してしまう状態である。「もっと評価されると思っていたのに……」という不満が大きくなるのが2つ目の症例だ。就職活動で内定をもらうと、内定先企業の先輩社員からあの手この手で決断を迫られる。「君なら絶対に活躍できる」と言われ、自信を持って入社したものの、それほど評価されないという現実に直面する。人は周囲からの承認を得たがる生き物であり、Z世代も同様に仕事において「自分を認めてほしい」という欲求を持っている。このような欲求が満たされないと、徐々に不平不満を溜め込んでいくようになる。

 Value不足に悩まされている新入社員は、まず「評価への不満」という形でアラートを発するようになる。上司としては正当に評価しているつもりでも、本人は「自分の働きを見てくれていない」と不満を感じてしまい、自己認知と他者認知の乖離にさいなまれてしまう。この状態が続くと、「もっと自分を評価してもらえる場所があるはずだ」と考え、転職という決断に至る。

Power(力量)不足

 力量(Power)が足りていないために、やる気を喪失してしまう状態だ。社会人になって仕事の難しさや自分の至らなさを実感することで、自信が打ち砕かれ、「ついていけない……」という不安が日に日に募るのが3つ目の症例だ。

 Power不足に悩まされている新入社員は、まず「仕事の拒否」という形でアラートを発するようになる。「私にはこの仕事は無理です」と拒否されても、会社組織としてはある程度、トップダウンで仕事を割り振らざるを得ない。しかし、こうした状態が続くと新入社員は「虐げられている」と感じ、嫌気が差して退職してしまう。

3つの症例への対応策

 このような症例に陥りがちな新入社員がスタートアップ期を乗り越えていくためには、組織人格で役割を演じることによって成功体験を重ねるプロセスが欠かせない。「できた → 褒められた → 面白い」という体験を繰り返すことで、3つの症例から解放されていく。筆者は、このような体験を「Meaning」「Value」「Power」の頭文字から「MVP体験」と呼んでいる。

 スタートアップ期の新入社員にMVP体験を重ねてもらうため、上司に心がけていただきたいのが以下の3点だ。

(1)仕事をスモールステップにする

 まずは、「できた」という実感を持ってもらうことが重要だ。無理に仕事のハードルを上げることを避け、「小さな仕事を任せて、やりきったら褒める」を繰り返していこう。そのためには、仕事を細分化するタスクマネジメントと即時にフィードバックをする仕組みづくりが必要になる。

(2)仕事の評価ポイントを多様化させる

 次は「できた」ことに対して「褒める」ことを意識したい。新入社員は裏方業務が多く、スポットライトが当たりにくい。だからこそ上司は、目立ちにくい「縁の下」の行動に目を向けなければいけない。業務のスピードアップやミスの減少など、さまざまな評価ポイントを用意して新入社員を褒めるようにしたい。

(3)仕事に意義付けをする

 仕事ができて褒められた後は、「面白い」と思ってもらうことが重要だ。そのためには、新入社員が仕事に意義を見いだせるように導いていく必要がある。例えば「この仕事は地味に見えるけど、実は会社を大きなリスクから守っているんだ」「これを実現できれば、社会にこういう価値を提供できるよね」など、仕事に意義付けをするコミュニケーションを心掛けたい。

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