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サンリオ時価総額は1000億円超消失……「クロミ著作権」今後の展開は 企業が再認識すべき“知財リスク”古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

サンリオの人気キャラクター「クロミ」を巡って著作権トラブルが起きている。争点はどこにあり、今後の展開はどうなっていくのか。企業が再認識するべき知財リスクの観点から解説する。

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サンリオ、知財訴訟で敗北例も?

 サンリオは、過去にも知的財産権に関するトラブルを経験している。2010年、オランダのメルシス社が、サンリオのキャラクター「キャシー」が「ミッフィー」に酷似しているとして、著作権および商標権の侵害を主張し、オランダのアムステルダム地方裁判所に訴訟を提起した。

 同裁判所は、サンリオ側の著作権および商標権侵害を認め、サンリオに対して「キャシー」関連商品の生産・販売の即時停止を命じる仮処分決定を下したが、2011年3月に発生した東日本大震災を受けて両者は和解。共同で15万ユーロ(約1750万円)を義援金として寄付する形で幕引きした。

 震災が両者の争いをストップさせる形となったが、それ以降サンリオは「キャシー」を使えなくなり、事実上の敗北に近い形で終わったのだ。

 キャラクターやIPを手掛けるビジネスにおいて、知的財産権の管理は大きなリスク要因となる。今回のクロミちゃんのように、ファンの絶大な支持基盤が築かれたキャラクターで権利トラブルが起こってしまうと、それが表面化した時点で企業へのマイナスイメージは避けられない。

「クロミ訴訟」のポイント

 今回の「クロミ」を巡る訴訟の行方については、契約書がどのような内容であったのかが重要だ

 『おねがいマイメロディ』は2005年に放送されたテレビアニメであるため、2010年のミッフィー訴訟における知的財産リスクの教訓を得る前に契約が締結されている。サンリオ側にもスタジオコメット側にも何らかの“穴”がある可能性は十分に考えられる。

 まず、サンリオとスタジオコメットの間にどのような契約が交わされていたかが焦点となる。アニメ制作において、キャラクターのデザインが制作会社の手によるものであった場合、その著作権がどこに帰属するかは契約次第だ。通常、制作会社はアニメ制作の業務委託を受ける形で関与するが、委託契約の内容によっては、制作会社に一定の権利が残る可能性がある。

 例えば、契約書に「制作されたキャラクターの著作権はすべて発注者であるサンリオに帰属する」と明記されていれば、サンリオ側に有利な展開となる。一方で「制作会社またはデザイナーが創作したキャラクターの著作権は制作会社に帰属する」との記載があれば、スタジオコメット側の主張が説得力を増す。

 また、著作者人格権の問題も争点となる。著作者人格権とは、キャラクターの製作者が持つ「氏名表示権」や「同一性保持権」などの権利であり、譲渡ができないとされる。もし宮川知子氏が「クロミのデザインは自身の創作物であり、著作者人格権を持っている」と主張すれば、サンリオ側はキャラクターの改変やライセンス展開に一定の制約を受ける可能性がある。

 サンリオが勝訴するためには、契約書において「クロミの著作権がサンリオに譲渡された」ことを明確に示す必要があるだけでなく、「スタジオコメット側が著作者人格権を行使しない」旨の取り決めがあるかを立証しなければならない。

 ただ、過去のキャラクタービジネスの訴訟例を見ても、契約文書の解釈次第で結果が大きく変わることは珍しくない。もし契約が曖昧(あいまい)なものであった場合、裁判は長期化し、最終的には和解という形で決着する可能性もある。

企業が気を付けるべきポイント

 今回の訴訟は、企業にとって知財リスク管理の重要性をあらためて示すものとなった。キャラクタービジネスを展開する企業が同様のトラブルを避けるために、以下のポイントに気を付けたい。

 知的財産権を巡るトラブルの多くは、契約の曖昧さに起因する。当初はそれほどブレークすることはないと思い、安易に契約書を作ってしまったが、その契約に基づいて制作された成果物が時間をおいて莫大な経済効果を生み出す場合がある。そうなる前に、著作権の帰属や使用範囲、二次利用の権利などを明確に記載し、争点となる余地をなくすことが重要だ。

 次に、派生的なキャラクターを製作する際には、ライセンス契約の範囲や独占権の有無を定義しておかなければならない。すでに契約済みのものについても、双方で契約内容を精査し、契約書の内容をアップデートすることも有効だろう。新しく作る契約書のレビューだけではなく、知的財産権に関する定期的な監査を行うことで、潜在的なリスクを未然に防げる。

 制作会社やデザイナー側の立場からは、「著作権の譲渡」と「著作者人格権を行使しない」という取り決めが入っている場合、通常よりも高額な製作費を請求することが一般的だ。今回、サンリオ側は著作者人格権の行使について「適切に」処理していると表明しているにとどまっているため、「行使しない」旨の取り決めが入っていたかどうかは不透明だ。

 また、仮にその旨が入っていた場合、スタジオコメット側から相談された弁護士としても勝算が薄いという判断になるだろう。それでも訴訟に踏み切るということはこの点に何らかの穴があるとも考えられそうだ。

 クロミを巡る著作権トラブルは、キャラクタービジネスにおける著作権管理の在り方や、企業間の契約実務に大きな影響を与える可能性がある。

 キャラクタービジネスの成長とともに、著作権トラブルのリスクも高まる中で、サンリオの対応が注目される。

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