B2Bマーケターの残念な“勘違い” 「ホットリードへの固執」、何が危ない?(1/2 ページ)
「顧客起点」の重要性は、マーケティングのあらゆる場面で語られます。しかし「顧客起点」にこだわってパスしたはずのホットリードが、営業からはあまり歓迎されず、こちらが想像していた熱量でフォローアップしてくれない……。いわゆる、マーケと営業の「ズレ」のようなものが生まれることも多々あるのではないでしょうか?
「顧客起点」の重要性は、マーケティングのあらゆる場面で語られます。
B2Bマーケティングの現場でも、MAツールの活用推進や今話題の「インテントデータ」(ユーザーの目的や興味関心を示す、Web上における行動履歴データ)など、取得できる顧客の情報が増えています。そうしたデータを駆使していかにホットリードを導き出すか、パイプラインを作り出すかに日夜頭を悩ませているマーケターも数多くいらっしゃるでしょう。
しかしそうやって「顧客起点」にこだわってパスしたはずのホットリードが、営業からはあまり歓迎されず、こちらが想像していた熱量でフォローアップしてくれない……。いわゆる、マーケと営業の「ズレ」のようなものが生まれることも多々あるのではないでしょうか?
筆者はエンタープライズ向けSaaS製品のマーケ責任者と、SalesForce/Account engagementを用いたセールスファネルの最適化をミッションとして数年担ってきましたが、その前はアイティメディアの営業として、大手IT企業のtoBマーケをご支援してきました。顧客行動データの1つを価値として提供する立場から、活用する側になって特に難しさを実感したのが、この「ズレ」の解消です。
さまざまな情報が積み重なり、データが最重要とされる今だからこそ、マーケターが顧客の行動データやMA上のステータスに固執しすぎてしまうことの危険性が高まっているのではないでしょうか? 営業により良い商談機会を創出するために、B2Bマーケターのマインドとして、顧客起点を「諦める」べきタイミングもあると筆者は考えます。
マーケ組織から見た「高スコア」企業=受注に近いワケではない
大前提として、顧客側の意思決定フローや、意思決定にかかわる人間が多様化・複雑化する中で、顧客の検討行動を自社がコントロールすることは非常に難しくなっています。
特に非IT部門が触れる機会が多い業務システムは、導入において業務部門、中でも現場の声を重視するケースが増えてきました。私がメディア営業として活動していた2018年前後は「LOB(Line of Business)のリードも必要じゃないか……?」という声が、一部お客さまのマーケターから聞かれていた程度だったと記憶しており、コロナ禍を経て5〜6年の間で大きな変化があったと実感します。
そうした状況でマーケターが考えなければならないことは、自分たちが可視化できている顧客行動は「あくまで検討活動の一端にすぎない」ことです。
例えば、顧客行動の評価の指標として多くの企業が行っているであろう「スコアリング」。自社サイトへの接触やセミナーへの参加、資料ダウンロードなどのトラッキング可能な行動に、その行動の重要性に応じてスコアの比重をかけ、加点をしていくものです。
料金ページや細かい機能ページの階層へのアクセスなど、強い関心が読み取れる行動のスコアを高く設定するなど、この設計においては「顧客の自社への興味関心を可視化する」ことが基本的な考え方になります。
組織によっては、一定の点数を超えたら通知が出たり、ホットリードにステータスが変わり、インサイドセールスが電話をする──といった仕組みが出来上がっているかもしれません。
これ自体は非常に有効な手段だと考えていますし、検討が進んでいる顧客であれば、そのタイミングで連絡が来るのは顧客体験としても非常に良いものになります。
しかし残念ながら、高スコアのリードや顧客=受注に近い、と一概に言えるものではありません。
例えば、たくさん情報に触れ、高スコアになっている企業ほど、他の競合製品の情報にもたくさん触れている可能性もあり、今まで営業も受けてきた経験も多く、検討が複雑化する場合もあります。もしかしたらすでに本命を決めていて、稟議(りんぎ)を上げる上で必要な相見積もりを取るための「当て馬」に使っているだけかもしれません。
当然、そういったリードを「HOTです!」と喜々としてトスアップしても、営業としては有効な商談にはならないでしょうし、商談品質や受注率の低下にダイレクトに響いてきます。まさに「ズレ」の原因です。
逆にスコアは少なくとも、あまり展示会やイベントが行われない地方の企業で、IT製品の導入事例も公開されていない場合、最初は少しの関心でも、こちらからの積極的な情報提供をすれば、競合が入る余地なくリードタイムも短く導入につなげられるパターンもあります。
また、「スコア0」が意味することは「関心0」ではなく、単純にコミュニケーション方法が適切でないだけで、例えばDMなどのアウトバウンド施策で簡単にコンバージョンする場合もあります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
数字に“とらわれる”マーケターの現代病 「普通のことを普通に考える」だけでいい
「顧客中心主義」と「数値主義」どちらを選ぶか──現代のマーケターは今、難しい2択に迫られている。筆者は、現在のマーケターは“数字にとらわれている”人が多いと思うのだ。むやみな「THE MODEL」導入の落とし穴 失敗企業に共通する“犯人”とは
セールスフォース・ジャパンが提唱するTHE MODEL、今や関連ある職種の方なら誰もが耳にしたことがあるだろう。しかし「THE MODELを導入したがうまくいかない」「THE MODELの分業体制で弊害が起こっている」など、最近は批判的な指摘も目立つ。THE MODELそのものが悪いのか、それともむやみに導入することが間違いだったのか、犯人探しをしていきたい。「ChatGPT一択」ではない 営業のプロが解説、商談のレベルを底上げする生成AIサービス活用法
営業パーソンの生成AI活用に注目が集まっている。生成AIと聞くと、「ChatGPT」を思い浮かべる方が多いが、生成AIはChatGPT一択ではない。営業が使うべき生成AIサービスは何か、具体的な活用方法について解説する。“勝ち手法”だった「インフルエンサーマーケ」 急激に失速した2つの要因
D2Cの“勝ち手法”だった「インフルエンサーマーケティング」が急激に失速した。「D2C」を取り巻く市場は厳しい中、企業は従来の「インフルエンサーマーケティング」の認識をアップデートする必要がある。D2Cはオワコンなのか 多くのブランドが淘汰された背景に“闇深い”事情
D2Cビジネスは冬の時代を迎えている。なぜ多くのブランドが淘汰されたのか……。背景に3つの理由がある。「ソリューション営業」はもう古い! これからの時代に求められる「インサイト営業」の有効性
日本では長年、ソリューション営業が正義とされ、課題解決型の営業アプローチが求められてきました。一方昨今米国では、市場動向や顧客状況の力学に迅速に適応し、顧客が自覚をもしていない未知のニーズを解き明かす「インサイト営業(Insight Selling)」が新たな営業スタイルとして注目を集めています。日本で正攻法とされていたソリューション営業は限界を迎えているのです。「CPA至上主義」のマーケターはいずれ敗北する……背景に2つの理由