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入社3〜5年目の若手が辞める「3つの症例」 鹿島建設「アイカンパニー研修」とは?Z世代の若手社員の離職を防ぐマネジメント(2/2 ページ)

入社3〜5年目の若手の離職防止を図るためには? 鹿島建設「アイカンパニー研修」などからヒントを探る。

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鹿島建設「アイカンパニー研修」とは?

 ここからは、鹿島建設がペースメーク期の社員を対象に実施している「アイカンパニー研修」をご紹介したい。

 同社の事務系総合職はさまざまなステークホルダーと関わるため、「周囲をうまく巻き込んで牽(けん)引できること」が重視されていたが、こうした人材を育成することができていなかった。また、5年次に人事異動(部署異動)があるが、新しい土地・職場での人間関係や担当業務をネガティブに捉えている若手社員も少なくなかった。こうした課題を解決するために、同社はアイカンパニー研修を導入した。

具体的な施策

 アイカンパニー研修は、若手社員が自身のキャリアと成長に向き合う研修だ。入社3〜5年目の社員を4〜5人単位のグループに分け、次の3つのプログラムを実施する。

(1)キャリアデザインの必要性の理解

 キャリアデザインの必要性を理解してもらうために、まず自己特性を言語化してもらう。このときに、土台になるのが「アイカンパニー」(自分株式会社)という考え方だ。企業が生き残りをかけて市場優位性を模索するように、個人の成長も、一人ひとりが「いかに選ばれ続けるプロフェッショナルになれるか」が重要になる。企業と同じように、個人も「アイカンパニー」を設立し、個人として市場優位性を発掘していく重要性を伝えるプログラムである。

 アイカンパニーの考え方では、個人が置かれている環境を次のように定義する。

  • 市場:業界、所属企業
  • 顧客:取引先、上司
  • 競合:同僚、他のビジネスパーソン

 こうした環境において個人として選ばれ続けるためには、次の3つの観点を踏まえて、アイカンパニーの経営戦略を立てなければいけない。

  • 経営理念(やりたいこと):経営上、大切にしたい価値・こだわり
  • 市場ニーズ(やるべきこと):市場や顧客から期待されていること
  • 技術力(やれること):過去の経験から獲得したスキル

 この3つの観点が重なり合うところに、「引力」に引っ張られることのない個人としてのビジョン(経営目標)が生まれるのだ。

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(2)現状のアイカンパニー理解

 アイカンパニーの現状を理解するためには、定量情報と定性情報の両面から自身の状況を相対的に捉える必要がある。そのために「360度サーベイ」を活用し、仕事への姿勢やスキルなどについて、上司や同僚から5段階で評価してもらう。

 日々のフィードバックはそこまで響かなくても、360度サーベイのように多くのステークホルダーから定量的なフィードバックをもらうと、自分自身を客観的に見つめ直さざるを得ない。360度サーベイは、まさに「評価を客観視させる」きっかけになるものだ。若手社員は、360度サーベイの結果に向き合うことで、自分が発揮している「組織人格としての役割演技力」を定量的に把握できる。

 加えて、上司に手紙を書いてもらい、若手社員に渡してもらう。日ごろのコミュニケーションは、目の前の業務の進捗確認や支援など、どうしても短期目線になりがちである。だからこそ、上司からの手紙では、本人の長期的な成長を期待する言葉を書いてもらう 。

(3)アイカンパニーのビジョン策定

 (1)(2)のプログラムで把握した自己特性を踏まえ、アイカンパニーのビジョンを策定してもらう。グループ内でお互いにアドバイスをし合いながら、自分だけでは決められない高い基準でビジョンを策定する。研修後は、策定したビジョンをそれぞれの職場に持ち帰り、同僚や上司とともに自身のキャリアを深めていく。

 ビジョン策定は、「責任ある仕事を任せる」ための心構えとも言える。高い基準でビジョンを策定してもらうためには、今の仕事にとどまらないスキルや、今の関係性にとどまらない役割を見据える必要がある。現在の延長線上にない自分を描いてもらうことで、責任ある仕事を任せる準備ができるのである。

成果

 アイカンパニー研修を受講した若手社員は、部署や業務特性にかかわらず社会人として不可欠な考え方や共通のスタンスを身に付け、成長の土台をつくることができた。近い将来に控える部署異動という環境変化に負けず、自身のキャリアを切り開いてくれるであろうという手応えが得られた研修となった。

 入社3〜5年目の若手社員に対しては、ぜひ「PRO化」を意識したオンボーディングを実践していただきたい。PRO化を促すことで見習いマインドから脱却させることができれば、ペースメーク期の離職を減らすことができるだろう。

 次回は、入社5〜7年目の若手社員が辞める3つの症例とオンボーディングのポイントをお伝えしたい。

著者情報:小栗隆志(おぐり たかし)

株式会社リンクアンドモチベーション フェロー。

1978年生まれ。2002年、早稲田大学政治経済学部卒、株式会社リンクアンドモチベーション入社(新卒一期生)。人事コンサルタントとして、100社以上の組織変革や採用支援業務に従事。2014年、パソコンスクールAVIVAと資格スクール大栄を運営する株式会社リンクアカデミー代表取締役社長就任。17年、株式会社リンクアンドモチベーション取締役に就任し、経営に携わる。23年より現職。同年、株式会社カルチベートを創業。近著に『Z世代の社員マネジメント 深層心理を捉えて心離れを抑止するメソドロジー

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