入社5〜7年目の若手が辞める「3つの症例」 次世代を担う人材を育てるには?:Z世代の若手社員の離職を防ぐマネジメント(2/2 ページ)
筆者は、入社5〜7年目を「ギアチェンジ期」と定義している。ギアチェンジ期の若手社員の離職防止を図るためには、ギアチェンジを妨げる3つの「不安」の正体を認識しておく必要がある。
オンボーディング事例「リンクアンドモチベーション」
ここからは、筆者の所属するリンクアンドモチベーションがギアチェンジ期の若手社員を対象に実施している「TOP GUN SELECTION研修」を紹介したい。
2000年の創業以来、事業が拡大・多角化していくなかで当社は管理職層のスキルアップが不可欠だった。また、創業から20年以上が経過しており、次世代の経営人材の育成も重要な課題となっていた。
創業期は、急拡大を遂げるなかで若手にマネジメントを任せざるを得なかったが、上場し、社会的責任が増していくなかで、ギアチェンジ期に当たる30歳前後のメンバーに「MGR経験」を積ませる機会は減少していた。それゆえ、マネジメント視点を獲得する機会を意図的につくり出し、管理職層候補のレベルアップを図ることを検討していた。
そこで、当社は経営人材育成を目的とした選抜型の育成プログラム「TOP GUN SELECTION研修」をスタートする。性別を問わず、次世代幹部候補として選抜した社員に、上位階層の視点で考える機会を提供する研修である。
具体的な施策
(1)経営層への提案
選抜された若手社員に数カ月の期間を与え、部門長の立場で事業企画を立案したり、経営陣になったつもりで投資家にプレゼンしたりするプログラムである。通常業務から強制的に視座を引き上げ、普段とは異なる立場で考えさせることで、若手社員に自分自身の殻を破ってもらうことを目的としている。現在より2階層以上、上の立場に立ってテーマを考えることで現在の業務を俯瞰できるため、現場での業務判断にも役立てることができる。
(2)サーベイフィードバック研修
360度サーベイをもとに、自分自身の成長課題を見つけていく研修である。特筆すべき点は、グループ代表による直接のフィードバックがあることだ。代表とのコミュニケーションを通して、「どのような経営判断をしてきて今に至っているのか?」「その都度、どのような葛藤があったのか?」といったことを知ることができる。
また、一般的な360度サーベイは現在の業務のネクストアクションを見いだすことが目的とされるが、この研修における360度サーベイは、次世代経営人材になることをゴールとして長期的に身に付けるべき課題が提示される。ここで示される課題は、30代以降の自分自身の成長指針になるものである。
成果
TOP GUN SELECTION研修をスタートして約4年になるが、受講者から次世代を担う人材が育ちつつある。以前は、1人の役員が10近い事業部を管掌していたが、それらの事業部を再整理して事業領域に分け、次世代の経営メンバーを領域長に据え、より広範なマネジメントを任せられるようになった。その結果、組織の分化が進み、20代の子会社社長や30代前半の事業部長も誕生している。
入社5〜7年目の若手社員に対しては、ぜひ「MGR経験」を意識したオンボーディングを実践していただきたい。MGR経験を通して不安を解消できれば、ギアチェンジ期の離職を減らすことができるだろう。
本連載でお伝えしてきた「個人人格と組織人格」「We感覚」などの観点は、筆者がこれまでの経験から積み重ねてきたマネジメント哲学ともいえるものだ。第3〜5回でお伝えした「MVP体験」「PRO化」「MGR経験」も同様である。
組織運営に唯一無二の正解はないが、大切にしなければいけない普遍的な観点は存在する。本連載で紹介してきたいくつかの観点が、若手社員の離職に悩むみなさまの一助になれば幸甚である。
著者情報:小栗隆志(おぐり たかし)
株式会社リンクアンドモチベーション フェロー。
1978年生まれ。2002年、早稲田大学政治経済学部卒、株式会社リンクアンドモチベーション入社(新卒一期生)。人事コンサルタントとして、100社以上の組織変革や採用支援業務に従事。2014年、パソコンスクールAVIVAと資格スクール大栄を運営する株式会社リンクアカデミー代表取締役社長就任。17年、株式会社リンクアンドモチベーション取締役に就任し、経営に携わる。23年より現職。同年、株式会社カルチベートを創業。近著に『Z世代の社員マネジメント 深層心理を捉えて心離れを抑止するメソドロジー』
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