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なぜ? くら寿司が株主優待を廃止→2カ月で復活 その“裏目的”とは古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」

くら寿司が、一度廃止した株主優待をたった2カ月で「復活宣言」した件が波紋を呼んでいる。その裏にはどのような目的があると考えられるのか。

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筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら


 くら寿司が、一度廃止した株主優待をたった2カ月で「復活宣言」した件が波紋を呼んでいる。

 同社は短期間の方針転換について、「経営戦略上の見直し」としているが、市場は疑いのまなざしを向けている。というのも、くら寿司の優待廃止により大幅に株価が下落したのと足並みをそろえる形で、同社の株式が田中邦彦社長の息子の資産管理会社であるトラスト社へ売却されたからだ。

 株価が下がったタイミングで息子の会社に株式を移転、そして移転が完了したら優待を戻し、株価を上げた──? そんな“出来過ぎている”ようにも見える振る舞いについて、一部の市場関係者からは「相場操縦的ではないか」という声や「節税目的ではないか」という見方が強まっている。本稿では、同族企業の株価と税務の関係、さらに優待を巡る企業の狙いを解説する。

株主優待廃止も、すぐさま復活……くら寿司は何を狙っている?

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くら寿司が株主優待を廃止後2カ月で「復活」させ、波紋を呼んでいる(写真は編集部撮影)

 2024年12月11日、くら寿司は長年続けていた株主優待を廃止すると発表した。発表直後の株価は10%以上も下落する事態となった。しかし、ここまでは経営判断として問題ない。株主優待制度は日本独自の制度であり、少数株主に対して偏った株主還元が行われることが懸念されるものだ。近年、優待を廃止し、配当金に還元を一本化する流れが起きており、同社のケースもその一環と見られていた。

 問題はここからである。優待廃止からたった5日後の12月16日に、社長の息子が経営する資産管理会社に多くの株式が移転されたことが大量保有報告書などにより判明したのだ。

 さらに、わずか2カ月ほどで今度は「優待を再導入する」という方針転換が公表された。これにより、再び株主からの買いが入りやすくなり、株価は大幅に反発した。

 優待廃止→株価下落→株式移転→優待復活→株価上昇という流れは、表面上は「経営判断の変更」と説明しやすいが、タイミングを考えれば「評価額が下がったところで株式を移し、節税したのではないか」という疑念が生じる。

 上場企業の株式は、基本的に市場での時価を基に相続税や贈与税の評価額が算定される。もし株価が大きく下落した時期に株式を移転できれば、受贈者や相続人が将来背負う税負担を抑えられる可能性がある。とりわけ同族経営色の強い企業では、大株主が創業家・親族などに偏っているため、この“時価の変動”が与えるインパクトは大きい。

それでも「クロ」にはならない?

 株式の移転が進んだ後、優待の再導入を表明すれば、「やはり優待は魅力的だ」と判断した個人投資家が再び買いに走り、ほとんどのケースで株価は回復する。結果として、移転時の評価額は低く抑えられ、将来的な含み益や支配比率は創業家側が享受できる構図が出来上がる。

 税務当局がこのような動きを「意図的な株価操作」として違法と断じるには、企業の内情をどこまで立証できるかという難しさがあるため、現状ではグレーゾーンだと指摘される。

 想像以上に自社の株価が下がったとして、その状況に対処するために創業家で株を買う決断があり得ないわけではない。例えば、事前に計画があってその録音や文書データが残っていれば黒と判断され得る。しかしそうでもない限り、現状はやはり“グレー”にとどまるといえそうだ。

 優待の有無が投資家の売買意欲を左右することは、多くの実例で証明されている。特に外食や小売りのように日常生活との親和性が高い企業は、配当金よりもコストパフォーマンスにおいて優れた還元ができるという側面もある。なぜなら、外食産業やメーカーは、商品やサービスの原価だけ負担すれば、優待を受ける投資家は原価よりもはるかに高い市場価格相当の還元を認識するからだ。

 しかし今回、優待導入企業のうち、創業者や一族が大きな影響力を持つ「同族支配の色が強い」企業では、「優待制度操作リスク」があることが浮き彫りになった。優待を改悪したり、廃止したりすることで株価を下げ、大株主の資産移転に利用されてしまうなどの危険があるということだ。

 少数株主にとっては、優待廃止のタイミングで株価が下がり、損失を確定させた後、再導入によって高値づかみをしてしまう。そんなボラティリティの高い動きに翻弄(ほんろう)され、投資家が被った損失こそが、底値で買えた同族企業の含み益の源泉に変貌してしまうわけだ。一部では本件をインサイダー取引とからめて論じる動きもあるが、どちらかといえば相場操縦行為に近いと筆者は考える。

制度変更にも金融・税務当局は目を光らせるべき?

 金融・税務当局はこのような一連の取引が、著しく適当性を欠いているか判断し、金融上、税務上の対応を取るべきであろう。

 創業家が影響力を有する上場企業は、節税メリットを得るために既存株主と利害が対立するケースがある。同族経営ならではの突発的な方針転換が市場にリスクとして認識されれば、企業価値は下がってしまうだろう。短期間の優待廃止や導入に絡む株価操作が常態化するようであれば、少数株主保護の観点から税務・金融当局が監視を強化すべきではないだろうか。

 企業は投資家の不信を招かないためにも、優待に限らず、制度変更の理由と背景を開示し、説明を尽くすことで、ガバナンスの透明性を高める工夫が必要だ。

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