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キリン、「AI面接官」導入 人事が見いだしきれなかった「学生の特徴」をAIが発見人事のAI活用、ここまで来た! キリンHD編

キリンは2026年卒の採用プロセスにAI面接官を組み込む。面接官による判断基準のズレを解消できる点を評価しているようだ。狙いや成果を取材した。

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連載:人事のAI活用、ここまで来た!

 「エントリーシートの内容についてうかがいたいと思います。まずは『学生時代に力を入れたことについて』あらためてご説明いただけますか?」――よくある採用面接の一コマだが、この言葉をAIが発する場面も増えてくるかもしれない。

 キリンホールディングス(以下、キリン)は1月23日、VARIETAS(バリエタス)社が開発した対話型のAI面接サービス「AI面接官」の本格導入を発表した。2026年卒の学生の採用プロセスに組み込んでいく。


キリンはAI面接官のサービスを本格導入した(画像:バリエタスのプレスリリースより)

 本格導入に先立ち、2024年10月にトライアルを実施。AI面接官と人事担当者による一次面接の合否判断を比較分析したところ、「総合得点」「能力得点」において共に0.8以上と強い相関を示した。この結果は、当時キリンが抱えていた「面接官による判断基準のズレ」を解消するサービスであることを示唆していた。


キリン人事部の評価とAI面接官の評価との相関関係(画像:バリエタスのプレスリリースより)

 「これまで、多角的な判断基準で人による面接や書類選考などに取り組んできたが、限られた時間の中で見極められる学生のポテンシャルの幅と奥行きに余地があると感じていた。そして、人が対話を通じて判断する以上、面接官による判断基準のズレも生まれてしまう。それらを解消できると考え、導入に至った」とキリンの人事担当者は説明する。

なぜ、AI面接官と人事の評価は一致した?

 AI面接官の導入は、社内で判断基準のズレを認識し、統一していくためのきっかけとしても機能したという。では、なぜAI面接官はキリンの課題を解消できたのか。

 その理由についてバリエタスは「キリンが一次面接で社会人基礎力を評価していた点にある」と分析している。社会人基礎力とは、経済産業省が2006年に提唱した「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」を指す。

 「当社のAI面接官も、広範なデータを基に社会人基礎力を評価する仕組みを備えており、この共通点が評価の一致につながった」と説明する。


経済産業省が定義した「社会人基礎力」(画像:経済産業省「社会人基礎力」より)

 社会人基礎力には「主体性」「課題発見力」といった項目が含まれており、企業ごとにどの項目を重視するかをAI面接官の評価に反映させることも可能だという。志望動機の観点を評価する設定も備えており、各社が求める人物像をAI面接官に学習させられる。

AI面接官、キリンの人事が見いだしきれなかった学生の「特徴」を発見

 AI面接官は、これまでキリンが学生に見いだしてきた特徴を見極められることを証明したわけだが、さらにキリンは「これまで当社が見いだしきれていなかった、候補者の持つポテンシャルをAI面接官が明らかにした」とAI面接官の可能性に期待を示す。

 さらに、3回の面接のうち1回をAI面接に置き換えたことで、学生に対し、選考プロセス中の座談会や1on1面談、業務体験イベントといった新たな情報提供の場を設けることにもつながったという。AI面接官導入によって創出された人的リソースを、応募者とじっくり向き合う最終面接や研修・育成プランの検討などに振り分けていく。

採用にAI活用 学生の「不安」はどう取り除く

 採用にAIを活用する企業は増えてきている。ソフトバンクは2017年から新卒採用のエントリーシート評価にAIを活用。ピーク時には1カ月に数千件届くエントリーシートを10人の担当者が毎日4〜5時間かけて評価することもあったが、大幅に改善されたという。

 サイバーエージェントは新卒採用のグループディスカッションでAIを活用。録画データを基に、選考官が合否を判断する方法に変更することで、選考官のアサインや時間調整が減り、選考枠は150%に増加した。さらに、2次選考以降の合格率も向上しているという。

 AIを活用する企業がじわじわ数を伸ばしているのは間違いないが、AIが面接官として学生と対峙する機会はそこまで多くないように思う。不安を覚える学生もいるかもしれないが、キリンは「エントリー前の時点でAI面接を実施することを伝えるのに加え、AI面接の結果をフィードバックし、面接から学びや気付きを学生が得られるようにしている」と取り組みを明かす。

 バリエタスは工夫として「本番受検の前に、システム上で模擬面接を受検できるようになっている。この体験を挟むことにより、候補者は自分自身の音声がどのように認識されるかを把握し、安心して面接に臨めるようにした。また受検前に、AI面接官側の自己紹介や留意点を案内することで、候補者の方のAI面接官に対する理解を深められるように努めている」と説明する。

 人材獲得が激化する中で、自社に合う人材を効率的にミスマッチなく探すことの重要性は高まっている。AIの効果的な活用がその助けとなるのは疑いようもないが、最終的には人による判断が不可欠だ。

 キリンは「AI面接官の見極めの精度は高いが、実際に入社し、一緒に働いていくのは人になる。そのため人による判断は不可欠。AI面接官の得意領域と人が担うべき判断の役割を再度見直そうと思っている」と締めくくった。

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