「顧客が想定通りに行動しない」と嘆くマーケターに伝えたい 正しいカスタマージャーニーの描き方
顧客が思ったようにコンバージョンしてくれない。そんな風に嘆くマーケターに、B2Bセールスプロセスの最適化につながるカスタマージャーニー設計の考え方を紹介したい。
顧客が思ったようにコンバージョンしてくれない。
SQL(Sales Qualified Lead)化や案件化など、特定のファネルの転換率が低く、全体のパフォーマンスが上がらない。
このように、想定よりもセールスプロセスがうまく進まず、その対策となるマーケ施策をスポットで打っても、根本的な解決につながらない……といったお悩みを持つB2Bマーケターの方は多いのではないでしょうか?
どの組織でも、年間のマーケティング施策を考える上で「認知〜購買(サービスによっては再購入や活用の促進まで)」のファネルごとに施策をマッピングし、理想のカスタマージャーニーに沿って企画設計をしているかと思います。しかし実際には、それぞれの企画が“つながり”を持って届き、顧客に想定通りの行動をさせることは、非常に難しいものです。
また、入口となるリード獲得や、受注に直接つながるコンバージョンポイントに比べ、顧客リストへのナーチャリング施策など、中間ジャーニーに向けた施策の評価は分かりにくく、企画設計の正誤がボヤけてしまうこともよくあります。
「ファネル×施策」のみをベースにしたジャーニー設計は、実態と離れたマーケの「独りよがり」を生み出しかねません。セールス部門との連携がうまくいかなくなる事態を引き起こす恐れもあります。
この記事では、複雑化するB2Bセールスプロセスの最適化につながるカスタマージャーニー設計の考え方を考えていきます。
ファネルの「どこ」に課題があるのか明確にする
カスタマージャーニーを考える上で、まずは現状のセールスプロセスにおけるファネルの転換率をきちんと可視化することが大前提です。
リード獲得、HOTリード化、商談化、案件化、見積もり提示など、サービスとその売り方によって指標は変わりますが、どのファネルにボトルネックがあるのかを明確にした上で、顧客が自社製品の購買に向けてどのような検討プロセスを踏んでいるのか、議論します。
ここで重要なのは先方内での検討プロセスの解像度を上げ、そこに関わる登場人物を分類することです。
言わずもがなですが、B2Bにおける購買行動は複雑化していっています。さまざまな立場の方が検討に関与し、意思決定が行われています。「役員は全員導入に前向きだったが、現場にデモの使用感を聞いたところ評判が芳しくなく、一気に白紙に戻った」というパターンもありえますし、「●●さんの提供企業への印象があまりよくない」のような一見「不条理」な理由も、B2Bの現場でも決して無いとは言い切れません。
そこには自社が検知・対策できる内容もあれば、こちらが知りようがないものもあります。前提として、そうしたジャーニーを完全にコントロールすることは不可能です。しかしそのパターンを体系的に理解し、意思決定を支援するための仕組みを作ることはできます。
関係者全員の動きを予想し、マッピングしてみる
例えば、「決裁者」「導入推進者」のほか、間接的に議論に影響を及ぼす「関与者・助言者」、実際に製品を利用する「使用者」に分類をし、それぞれの立場の方が検討フェーズごとにどのような行動をするか、かつ他の立場の方にどのような影響を及ぼす可能性があるのかをマッピングしていきます。それに対して「自分たちが直接的に介在できること」「間接的には支援できること」を言語化していくと、自ずとやるべき施策がくっきりとしてきます。
例を挙げてみましょう。初回商談後の推進者から決裁者への接続が鈍い場合、推進者が説明しやすい補足資料を作ったり、推進者が紹介しやすい役職者向けのイベントを企画したりする。稟議プロセスの中で、運用に関与する関連部署から懸念が生まれることが多い場合は、説明の手助けになるようなROIを明確にしたWPを作ったり、関連部署に向けたオンデマンドセミナーを企画するなど、それぞれのフェーズでジャーニーと直結した具体的な施策に落としていくことができます。
こうした顧客の購買行動がスムーズになるよう支援するための活動は「バイヤーイネーブルメント」と呼ばれます。こうした領域までマーケ部門が営業部門とともに踏み込んで考えていけると、より強固なセールスプロセスの構築につながります。
そもそもジャーニーのパターンを体系化していくにあたっては、当然ながら顧客と接している部門の声をベースにする必要があり、マーケ部門だけで完結できるものではありません。仮説をいくつか作った上で、営業やCSとともに議論やブラッシュアップを繰り返していくことで、より実践的なカスタマージャーニーが出来上がり、組織におけるマーケへの信頼も深まっていくのではないでしょうか。
筆者プロフィール:ヒガシナオキ
新卒でアイティメディア入社。大手IT企業のメディアを活用したB2Bマーケティングの企画設計・支援に従事し、2年目で全社MVPを受賞。
その後クックパッドで企業向けサービスの営業企画、マーケティング/IS組織の立ち上げとともに、企業向けメディアの立ち上げとそれを起点にした新規事業開発を担当したのち、エンタープライズ向けSaaS企業でマーケ責任者及びセールスプロセス改善に従事。イベントマーケ、コンテンツライティング、SalesForceベースでのマーケ〜営業までの仕組み作りなどが得意分野。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「それ効果あるの?」と言わせない! 三田製麺マーケターの“社内を納得させる”施策効果の可視化術
「SNSのフォロワー数は増えているのに、売り上げへの貢献が見えない」「オンライン施策と店舗集客の関係性が分からない」――。多くの広報・マーケティング担当者が、一度は直撃したことがある課題だろう。そんな中、つけ麺チェーン「三田製麺所」を運営するエムピーキッチンホールディングスは、SNSやWebを活用した認知拡大から、コアファンの育成、そして売り上げ貢献までを可視化する独自のロジックを確立した。
B2Bマーケターの残念な“勘違い” 「ホットリードへの固執」、何が危ない?
「顧客起点」の重要性は、マーケティングのあらゆる場面で語られます。しかし「顧客起点」にこだわってパスしたはずのホットリードが、営業からはあまり歓迎されず、こちらが想像していた熱量でフォローアップしてくれない……。いわゆる、マーケと営業の「ズレ」のようなものが生まれることも多々あるのではないでしょうか?
数字に“とらわれる”マーケターの現代病 「普通のことを普通に考える」だけでいい
「顧客中心主義」と「数値主義」どちらを選ぶか──現代のマーケターは今、難しい2択に迫られている。筆者は、現在のマーケターは“数字にとらわれている”人が多いと思うのだ。
むやみな「THE MODEL」導入の落とし穴 失敗企業に共通する“犯人”とは
セールスフォース・ジャパンが提唱するTHE MODEL、今や関連ある職種の方なら誰もが耳にしたことがあるだろう。しかし「THE MODELを導入したがうまくいかない」「THE MODELの分業体制で弊害が起こっている」など、最近は批判的な指摘も目立つ。THE MODELそのものが悪いのか、それともむやみに導入することが間違いだったのか、犯人探しをしていきたい。
「ChatGPT一択」ではない 営業のプロが解説、商談のレベルを底上げする生成AIサービス活用法
営業パーソンの生成AI活用に注目が集まっている。生成AIと聞くと、「ChatGPT」を思い浮かべる方が多いが、生成AIはChatGPT一択ではない。営業が使うべき生成AIサービスは何か、具体的な活用方法について解説する。

