マルハニチロ→Umiosに社名変更 企業価値は上がる? 下がる?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」
水産大手のマルハニチロが、2026年3月をめどに社名を「Umios」(ウミオス)へ変更する。大胆な決断は、経営戦略上どのような意味を持つのか。株式市場はやや冷ややかな反応を見せているようだが、中長期的なマイナス影響はどの程度あるのだろうか。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
水産大手のマルハニチロが、2026年3月をめどに社名を「Umios」(ウミオス)へ変更する。
マルハニチロといえば、もともとマルハとニチロという2社の合併により誕生した、業界でも屈指の老舗企業である。そんな経緯を持つ企業名から一転、両方の旧社名を一切残さない新社名に切り替えるという大胆な決断は、経営戦略上どのような意味を持つのか。
既に知名度の高い現社名を刷新することに、株式市場はやや冷ややかな反応を見せているようだが、中長期的なマイナス影響はどの程度あるのだろうか。
市場はマイナスに反応? マイナス影響は続くのか
マルハニチロは、2007年に旧マルハ(創業1904年)と旧ニチロ(創業1908年)が経営統合する形で誕生した。
缶詰や冷凍食品などの加工水産品のみならず、水産資源の獲得から流通までを広く手掛ける総合食品メーカーとして、国内食卓を支えてきた。
今回の発表によれば、新社名Umiosは、「海」というキーワードに由来すると同時に、「One」「Solutions」を掛け合わせた造語だという。
少子高齢化で国内の水産需要が伸び悩む中、海外における魚の消費量の高まりもあるだろう。水産をルーツとする老舗企業でありながら、グローバルに多様な事業領域へと進化を遂げたいとの意志が表れているのかもしれない。
社名変更の発表を受けた翌日の相場は、寄り付き(株式市場が開いた際の最初の取引)こそ前日比で大きく値上がりしたように見えたが、そこから大きく売り込まれる形になり、3月27日時点では発表前よりマイナスで推移している。
マルハニチロの場合、既存の主力商品である「いわし缶」「さば缶」などで長年のロゴやブランドカラーが根付いている。それだけに、株式市場は、刷新が成功するか否かについて、現段階では“半信半疑”ないしはややマイナスに捉えているのかもしれない。
「カナデビア」は何の会社?
ところで、読者の皆さんは「カナデビア」という上場企業をご存じだろうか。正解は旧日立造船である。
カナデビアは2024年10月1日に称号変更した。由来は「奏でる」とラテン語の「道」を表す「Via」を組み合わせたものだ。時期的に見ても、変更後における商号の成り立ち方をみても、Umiosへの商号変更と似ている。
他にも、旧日本ユニシスが「BIPROGY」に社名変更するなど、上場企業の間で漢字の社名を横文字に刷新していく流れがある。
海外展開を視野に入れる企業は、発音や表記がシンプルで、海外の人も発音しやすいネーミングを取り入れる傾向にある。
マルハニチロは、B2C事業であり、ブランドは子どもから高齢者まで幅広い層に親しまれている。
突然「Umios」と言われても、当初は消費者が旧来のブランドとの関連性を十分に理解できず、販売現場での混乱やイメージ低下を招くリスクの指摘もあるかもしれない。取引先との契約書類だけでなく、B2B向けにはない商品パッケージや広告・周知活動など、ブランド変更に伴うコストもある程度膨らみそうだ。
最終的な評価は業績で決まる
社名変更に対する投資家の評価が定まるには時間を要する。鍵を握るのは、刷新されたブランドが新規市場でどのような業績を上げるかだ。実際にグローバル事業の拡大が数字として現れるようになれば、Umiosという名称は単なるシンボルではなく、企業の成長を体現するブランドとして市場に受け入れられるだろう。
社名変更には「既存のブランドを失い、業績が不安定になる」というリスクがよく指摘される。しかし、実際のところは短期的な影響にとどまるようだ。
英国上場企業を対象とした2009年のリサーチ「The impact of name changes on stock prices and operating performance」によれば、1994〜2004年に完全な社名変更を行った企業は、変更後3年間で平均して約55%の株価下落を記録しており、特に「Group」など多角化を示唆する名称を加えた場合、パフォーマンスの悪化が顕著だったという。
たしかに、社名変更の発表直後には一時的に株価が上昇し、取引量も増加する傾向があると報告しているが、その影響は数日〜数週間で消失し、長期的な業績や株価への持続的な影響や相関性は確認されなかったという。
ただし、リサーチの期間にITバブルの発生から崩壊までが含まれている点は留意すべきと著者も言及している。この間、IT企業が相次いで「.com」などを社名に取り入れ、株価が急騰するケースが多発し、分析期間中にバブルの影響を強く受けた企業名変更が含まれている可能性があることは意識しておきたい。
以上を踏まえると、社名変更は短期的に株価変動をもたらす可能性こそあるものの、長期的視野においては、社名うんぬんではなく、その背後にある戦略と実行力に左右されると考えるべきだろう。
重要なのは、名称変更が目的化することなく、実質的な経営戦略と結び付いているかどうかである。
中長期ビジョンのもとでリソースをいかに配分し、成果を挙げられるかが重要だ。Umiosブランドがグローバルでの存在感を高め、社名変更にまつわるジンクスを破ることができるかに注目したい。
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