2015年7月27日以前の記事
検索
コラム

「ラインッ」 LINEの通知音は「単なるサウンド」ではない、隠されたブランディング戦略と体験価値とはグッドパッチとUXの話をしようか(2/3 ページ)

LINEの「ラインッ」という通知音や、Nintendo Switchのコントローラーを本体に装着する際の「カチッ」という音はなぜ存在するのでしょうか? UXデザイナーが解説します。

Share
Tweet
LINE
Hatena
-

「カチカチ」「シュポッ」 スマホの操作音やLINEの独特な送信音、何のため?

 冒頭でも述べた通り、私たちの生活に音は欠かせません。一方、デジタルプロダクトでは、プログラムしなければ音は発生しません。どのように自然で印象に残る音を実装するかによって、ユーザー体験は大きく変わります。

 スマホやタッチパネルを操作していて、「あれ、今ちゃんと押せた?」と戸惑ったことはないでしょうか? テレビのリモコンなど、凹凸のあるボタンなら、押し込んだ感触やボタンのへこみで認識できますが、フラットなタッチパネルにはそれがありません。

 その代わり、「カチカチ」といった乾いた音がすることで、私たちは無意識のうちに操作の確からしさを認識しています。 私たちは現実世界において、動いた時に服がすれる音や地面に足を着ける時の音を実体験として持っているため、何か行動をすれば音が発生するものだと無意識に期待しているのです。


なぜスマホは「カチカチ」という操作音がするのか?(画像:ゲッティイメージズより)

 メモ帳や本など物理的に存在する“モノ”を、スマホで代替する世界を目指したスティーブ・ジョブス氏は、iPhoneのアプリに「スキューモーフィズム」というデザイン手法を多用しました。これは、モノの操作感をデジタル上で再現することで、ユーザーの理解をスムーズにするという考え方です。

 かつて、ろうそくが電球に置き換えられた際、多くの「燭台の形をした電球ソケット」が作られたのも、同様の効果を狙っています。これは、新技術に移行する際、前の時代の体験を再現することで、学習コストを抑えながら新しい技術を受け入れやすくするための工夫といえます。

 スマホアプリのLINEでは、メッセージを送信すると「シュポッ」という独特の送信音が鳴ります。デジタル上でメッセージが送られても、現実世界には何の変化もありません。

 それでも、この音があることで「確かに送信された」という安心感が生まれ、さらに「何かを投げる」動作を想起させることで爽快感をもたらし、ユーザー体験を向上させています。

Nintendo Switchの「カチッ」はなぜ、欠かせない音なのか?

 LINEでは、メッセージの受信音にも工夫を凝らしています。受信音のバリエーションとして単なる効果音ではなく、「ラインッ」というサービス名を生かした特徴的な音を採用しています。これは、単なる通知音以上の意味を持ち、ユーザーにLINEというブランドを印象付けるブランディング戦略としても機能しています。


LINEの特徴的なサウンドにはどのような効果があるのか(画像:LINE公式Webサイトより)

 CMや店舗のチャイムなど、音がブランドの象徴となることは珍しくありません。LINEの受信音も同様に、「音を聞くだけでそのサービスを想起できる」仕組みになっているのです。

 また、この音は比較的高い周波数で構成されており、騒がしい環境でも認識しやすい設計になっています。聞き取りやすく、かつ耳障りではない絶妙なバランスが、LINEの親しみやすさを支えているのです。

 音によるブランディングは、ロゴやデザインと並ぶ重要な要素です。LINEは、通知音を単なる「音」ではなく、「ブランドの声」として機能させることで、ユーザーとの接点を強化しています。

 賛否のあるPayPayの支払い音も、独自のブランドイメージを形成する要素の一つとされています。支払い時に音を鳴らすことで、PayPayを認知していなかったユーザーにも存在を印象付ける役割を果たしています。

 同様の例として、Nintendo Switchのコントローラーを本体に装着する際に出される「カチッ」という音が挙げられます。これも単なる効果音ではなく、ブランドの印象を強化する重要な役割を持っています。この音は「Joy-Conを本体に装着する」という物理的な操作を強調し、視覚と聴覚の両方で「しっかり接続された」ことを認識させる効果があります。


Nintendo Switchのコントローラーを本体に装着する際に「カチッ」という音が鳴るが……(画像:任天堂プレスリリースより)

 さらに、CMなどで繰り返し使用することで、ユーザーがこの音を聞くだけでNintendo Switchを想起するブランディングの要素にもなっています。短く、クリアで、心地よいリズムを持つため、「スムーズに切り替わる」ことを象徴する音としても機能しています。これは、Switch(切り替え)という製品コンセプトとも一致し、「携帯モードと据え置きモードを自由に行き来できる」体験コンセプトを音で補強する役割を果たしています。

 一方で、音や映像は情報伝達の強力な手段ですが、視覚や聴覚に障がいのある人にとっては十分ではありません。近年では、ハプティクス(振動や触覚フィードバック)を活用し、情報を「触覚」で伝える技術が進化しています。

 iPhoneの触覚タッチやApple WatchのTaptic Engineは、ボタンの押し心地やナビゲーションを振動で伝え、より直感的なユーザー体験を実現していますし、ハプティクスをユーザーフィードバックとして用いるアプリが増えています。 今後は触覚の活用による音や映像では伝えきれない体験の拡張が、多様なユーザーにとっての快適なデザインの鍵となるでしょう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る