物価高の救世主「プライベートブランド」が、地方スーパーの再編を加速させる深いワケ:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
コメや青果など、多くの食品の価格が上がる中、比較的安価で良質なものを提供できるプライベートブランドに注目が集まっている。プライベートブランドは物価高時代のスーパーの救世主となるのか。そしてスーパーをどのように変えるのか……。
逆境の今こそ、PBを売り込む好機
しかし、近年の物価高によって、消費者の財布が急速に苦しくなり、背に腹は代えられない状況となったことで、環境は変わりつつある。これまでは、安くてもなかなか手に取ってもらえなかったPBを、「安いから試しに使ってみよう」という消費者が急増しているからだ。
当然だが、PB開発に取り組む小売業者のほとんどが「安かろう悪かろう」ではなく、高品質な商品を安く提供するコスパの良さを目指している。そのため、実際に試してもらえば「悪くない」という評価がもらえ、その後のリピートにもつながっている。消費環境が厳しい中ではあるが、だからこそPBの真価が伝わりつつあり、今こそPBを強化していく好機なのである。
コスパをウリにもしているトップバリュの売り上げ実績をみると、PBに追い風が吹いている様子がうかがえる(図表2)。2022年ごろまでは増加傾向にありつつも、イオングループの業容拡大のスピードから考えれば、十分に浸透しているとはいえなかった。
しかし、値上げラッシュが本格化した2023年以降は急拡大している。トップバリュに関しては、物価高騰が本格化した時期から価格据え置きをうたい、積極的な浸透を図ったことが奏功した。その結果、多くの人が手に取るようになり、品質のよさが消費者に浸透しつつあるようだ。
PB比率の推移を公表している他のスーパーも見てみよう。高低はあるが、各社着実に比率を増やしていることが分かる(図表3)。今こそ、PBの浸透を図るべく、消費者に売り込んでいく好機であることは間違いない。
とはいえ、PB開発を進めていくには、一定以上の事業規模が必要であり、中堅中小規模の地域スーパーにとっては、PBで収益改善を図ることは難しい。当たり前のことだが、メーカーにとっては、NBを売っていくことの方が最も望ましい。PBを引き受けるのであれば、シェア拡大か、自社工場の稼働率改善に寄与するといったメリットがなければ対応は難しい。いずれにしても1社で相応の発注量が確保できないと、PB開発を継続的に実施することは戦略の選択肢にしがたいのである。
つまり、PBが戦略のキーワードになるということは、今は地方に多数割拠する、中堅中小スーパーに大きな再編圧力がかかってくるということも意味している。
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