「銀行の融資が遅すぎる」と悩む中小企業を救えるか 地銀・JCB・マネフォ連合が挑む新サービスの正体(3/3 ページ)
クレジットカード大手のジェーシービー(以下、JCB)と、金融関連サービスを手掛けるマネーフォワードのグループ会社であるマネーフォワードエックスが異例のタッグを組んだ。両社は3月4日、中小企業・個人事業主向けの資金管理・キャッシュフロー改善ポータル「Cashmap(キャッシュマップ)」の提供開始と、金融機関の法人顧客向け新規事業の共創に向けた基本合意契約締結を発表した。
対立から協調へ──地方銀行・信金も巻き込んだエコシステム構築
両社は今後、それぞれの顧客基盤を生かし、提携先金融機関への法人向けサービス導入提案を進めていく。地方銀行や信用金庫にとって、この協業がもたらすメリットは多岐にわたる。
「地方金融機関は支店の統廃合が進み、リアルな顧客接点が減少する中で、デジタルチャネルの構築が急務となっている」と本川氏は指摘する。「しかし、独自のDX基盤を開発するには莫大なコストと時間がかかる。当社とJCBの共同ソリューションを導入することで、短期間・低コストで高品質なデジタルサービスを自行ブランドとして提供できることが最大のメリット」(本川氏)
実際に、銀行業務の効率化も期待できる。「融資審査においても、『Cashmap』で集約された顧客の資金状況データを活用することで、より精度の高い与信判断が可能になる。また、融資や各種手続きのオンライン化により、行員の業務負担も大幅に軽減できる」(中村氏)
法人顧客の囲い込みという点でも有効だ。「地域金融機関は大手銀行やネット銀行との競争が激化する中、単なる融資だけでなく、資金管理や経営支援までを含めた総合的なサービスが差別化ポイントになる」と本川氏。「顧客接点が増えることで、新たな融資機会やクロスセルの機会も生まれる」
JCBの99行のFCパートナーと、マネーフォワードエックスの「Mikatano」導入37行という両者のネットワークを活用し、「大きく3つのパターンを想定している」と中村氏は話す。法人向けポータルが未整備の金融機関にはOEM(Original Equipment Manufacturing、製品やサービスの製造を他社に委託する仕組み)提供、ミカタノとCashmapの融合、そしてDX未進行の銀行にはWeb側からの支援を進めるという。各金融機関の状況に応じたカスタマイズが可能な点も魅力だ。
マネーフォワードエックスの「Mikatano」が銀行の法人ポータル機能を、JCBの「Cashmap」がカード中心のDX機能を持つ。両者を融合させ、銀行業務もカードも含めた一つのプラットフォームを目指す。
「地域金融機関からは、われわれが先進機能をプロパーで試し、成功事例を共有してほしいという期待がある。JCBのプロパーがショーケースとなり、リスクを取って先行投資し、検証を重ねたものを各金融機関が導入できる形が理想だ」と中村氏は地域金融機関との関係性を説明する。
本川氏は連携の将来像を「さまざまなメーカーの家電をスマートスピーカーのような中央デバイスでつなぐイメージだ。われわれはそうした連携ハブの役割を担いたい」と説明する。
リアルとデジタルの融合、銀行とカード会社と新興フィンテック企業の協業というこの「異質な掛け合わせ」は、地方金融機関にとっての新たな競争力の源泉となるだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ヤマダデンキ、JR東、高島屋も……各社が急速に「銀行サービス」を開始したワケ
百貨店の高島屋や航空会社のJAL、プロ野球の北海道日本ハムファイターズなど、金融業界以外の企業が次々と銀行サービスに参入し話題を呼んでいる。さらにこの4月には、JR東日本も「JRE BANK」の名称で銀行サービスを開始すると発表した。なぜ今、銀行以外の企業が金融サービスに注目するのか。
人は増やさず年商12倍へ 「伊勢の食堂」の逆転劇に学ぶ、地方企業の“依存しない”戦い方
伊勢神宮の参道に立つ、創業100年を超える老舗食堂「ゑびや」は、10年ほど前には経営が傾き事業縮小の危機に瀕(ひん)していたという。経営を立て直した立役者が、元ソフトバンク社員の小田島春樹氏だ。小田島氏はそんな厳しい状態をDX推進で立て直すことに成功し、2012年からの12年間で年商を12倍に成長させた。
3年で「1万1000時間」の業務削減 創業103年の老舗メーカー、製造業特有の「DXの壁」をどう乗り越えた?
製造業のDXは進みにくい──。そんな話を聞いたことがある人も、少なくないだろう。専門性の高い業務特性、それゆえに属人化しやすい組織構造、ITリテラシーの高い人材の不足など、さまざまな要因がその背景にあると言われている。
窓口への来店数が半減する中、金沢・北國銀行は「顧客の声」とどう向き合ったのか
銀行の窓口への来店者数は、デジタル化の進展によりこの10年間で半減した。ATMの削減やキャッシュレス化が進む一方で、「高齢者が取り残される」「対面での相談機会が減ってしまう」といった不安の声も増えており、金融機関にとってこうした顧客との認識のギャップへの対応は悩みの種となっている。そんな中、北國銀行は2021年にカスタマーサービス部CSグループを新設。顧客推奨度を示す指標「NPS」を活用しながら、顧客の声を“参考にするだけ”で終わらせない仕組みづくりに取り組んできた。
大量のデータでSuicaが超進化! 改札で「タッチ不要」が異次元のインパクトをもたらすワケ
ピッ!――駅の改札で、もうこの音を聞くことがなくなるかもしれない。東日本旅客鉄道(以下、JR東)は、Suicaの大幅なアップデートを予定している。このアップデートにより、Suicaをタッチしなくても改札を通り抜けられるようになるという。