3年で「1万1000時間」の業務削減 創業103年の老舗メーカー、製造業特有の「DXの壁」をどう乗り越えた?:売り上げも25%増(1/3 ページ)
製造業のDXは進みにくい──。そんな話を聞いたことがある人も、少なくないだろう。専門性の高い業務特性、それゆえに属人化しやすい組織構造、ITリテラシーの高い人材の不足など、さまざまな要因がその背景にあると言われている。
製造業のDXは進みにくい──。そんな話を聞いたことがある人も、少なくないだろう。専門性の高い業務特性、それゆえに属人化しやすい組織構造、ITリテラシーの高い人材の不足など、さまざまな要因がその背景にあると言われている。
そんな中、バルブ製造メーカーのTVE社(兵庫県尼崎市)は、営業部門での業務デジタル化により3年間で業務時間を15%(約1万1000時間)削減し、売り上げを25%増加させることに成功した。TVEは、製造業ならではの課題をどう克服し、データ活用による業務効率化を実現したのだろうか。TVE営業本部若狭事業所長の石丸善彦氏に話を聞いた。
まるで「夏休みの宿題」 毎月「集計業務」で残業が発生
TVEは創業103年のバルブ製造メーカーだ。主に発電所向けの大型高圧バルブを製造販売している。
石丸氏が管轄する営業部門は、約40人の営業部員で構成され、プラントメーカー向け営業部隊とエンドユーザー(発電所)向け営業部隊の2つに分かれている。
「プラントメーカー向けでは技術仕様や費用面の交渉を、エンドユーザー向けでは定期検査時の保守点検提案を中心に、顧客の注文処理や社内調整、納期管理などのルート営業活動を行っています」(石丸氏)
TVEのクライアントは全国各地にいるため営業部員は日々忙しく、各自の担当地域を回っている。そのため、リアルタイムで数値を共有するのが難しい。そこで数値の把握のため、各クライアントとの受注見込み、契約内容などは、本社が管理する基幹システムに入力していた。しかし、この仕組みに課題を抱えていたという。
「営業担当者は、ただ数字を入力するだけ。そのため、自分の持ち分の状況が経営状況にどんな影響をもたらすのかは分かりませんでした。例えば、A社から1000万円受注した場合、その金額が今年度の売り上げにどう計上されるのかはまでは分からないんです」
その状況を解決するために、営業担当者は最低でも月に一度、各自で基幹システムからデータを抽出し、Excelを活用して実績の集計・管理をしていた。その結果、データ管理の属人化やブラックボックス化が進んでいった。
また、各営業担当の実績を共有する場を設けるための会議体や、それに伴う資料作成も必要だった。何より、膨大なデータの集計にはまとまった時間が必要で、月末になると多くの営業担当が、「夏休みの宿題」のように集計作業に追われ、夜遅くまで残業するのが恒例行事だったと振り返る。
データを可視化して「共通言語」を作る
この課題の重さに気づいたのが、石丸氏だった。
「営業全体を見渡す立場になり、全国各地の実績を見たいと思う場面が増えました。しかし、担当者が各自でExcelを管理しているし、更新のタイミングも担当者によって異なるため、リアルタイムの実績も、全体の状況も把握しづらい。これは会社として、非常に大きな課題だと感じました」
そこで石丸氏は、部内のデータの可視化を進めるため、BIツールの導入を提案。2020年、同社にはクラウド型データ活用プラットフォーム「Domo」が導入された。導入後は全社的なトレーニングを実施して標準ツールとして認知を広げるとともに、Excelで管理していたデータを次々とBIツール上に統合していった。
その結果、導入から2年目には14部門から選出されたメンバー全員がBIツールを活用できるようになり、3年目には課題として挙げていたExcel資料の80%をBIツール上でリアルタイムに管理し、社内に共有できるようになった。
現在TVEでは、主に以下の5つの用途でBIツールを活用している。
見積・受注件数や金額の進捗状況の把握
受注・売上状況のレポート作成
他部門に開示する営業計画や週報の作成
各営業部員の能力の多角的評価
営業先のコンタクト分析
BIツールの導入により、個別でも全体でも、リアルタイムの実績が可視化できるようになった。これにより、管理職が実績の管理をしやすくなっただけでなく、会議体や働き方、部内のコミュニケーションにも変化が生まれたそうだ。
「まず、会議体がなくなりました。みんな同じ画面で情報を瞬時に共有できるようになったから、報告のための会議が不要になったのです」と石丸氏は語る。
BIツールを導入した結果、営業部内では「共通言語」が生まれたのだ。実績で不明点があったら、BIツールを確認すればいい。上司に進捗を報告するときも、わざわざ資料を作成しなくてもBIツールを用いれば一目瞭然だ。そして、これまで進捗報告のために費やしていた時間は、目標達成や実績向上のための具体的な施策を考える時間となった。
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