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京都老舗よーじや、ロゴ変更は「悪手」なのか ブランド戦略の成否は?(4/4 ページ)

SNS上で大きな賛否を呼び、「よーじやと言えばあの手鏡ロゴだ」「変えてほしくなかった」という声が少なくない。果たしてこのロゴ変更は悪手なのか?

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よーじやは本当に「悪手」を打ったのか?

 結論を言えば、「ロゴ変更が悪手かどうかは、今後の展開次第である」ということになる。

 確かに強いブランドロゴをあえて刷新することは大きなリスクであり、短期的にはSNSでの反発や批判が起きやすい。しかし、それを「悪手」に終わらせるかどうかは、次の3つの要素によって左右されると考える。

コア要素の継承と新要素の融合

 スターバックスの例のように、既存のシンボルを完全に破壊するのではなく、かつ“新しい挑戦”を見せるバランス感が重要である。よーじやの場合、既存の鏡ロゴを完全に捨て去るのではなく「あぶらとり紙などで継続使用する」としている点は、ある程度の継承策といえよう。

「なぜ変えるのか」の徹底したコミュニケーション

 GAPの失敗例から学ぶべきは、ロゴを変える理由が顧客に伝わらなかったことである。よーじやはプレスリリースや公式Xにて「京都への貢献」「地元の人々にとってもなじみのあるブランドへの進化」を何度も強調している。

 とはいえ、今後さらに地元向けのイベントや商品展開、具体的な地域貢献活動などを可視化し、消費者が「なるほど、こういうことがしたいからロゴを変えたのか」と納得する流れをつくる必要がある。

実体験とのリンク

 ロゴやキャラクターだけを変えたところで、顧客の日常に何の変化も生まれなければ、「結局、形だけじゃないか」と失望につながりかねない。

 よじこグッズの発売やリブランディング記念の企画を充実させるだけでなく、「地元住民も利用しやすい店舗づくり」「地元イベントへの参加」「京都の新しい魅力を発信する取り組み」など、日常で顧客が“新生よーじや”を実感できる施策があれば、ロゴ変更の意義を説得力あるものにできるだろう。

「挑戦」の是非は誰が決めるのか

 よーじやの代表取締役・國枝 昂氏は、プレスリリースにて以下のように述べている。

「長く愛される企業、ブランドになるようぶれずに活動して参ります。今後とも、よーじやと『よじこ』をよろしくお願い申し上げます」

 この言葉には、地元京都への恩義や責任、そして新たなファンを開拓していく覚悟がにじんでいる。マーケティングの観点で見ると、確かに「強いロゴを変えるのは悪手だ」との声が上がりやすい。しかし、これまでの観光客中心のイメージを脱却し、「おなじみの店」として地元にも愛されるブランドへ変貌するためには、ある程度の“大きなメッセージ”が必要であり、それを象徴する手段としてロゴ刷新は大きなインパクトを持つ。


リブランディング記念として「よじこ」グッズを展開(出所:公式Webサイト)

 かつてトヨタがグローバル展開のタイミングで現在のロゴに切り替え、スターバックスが文字を外したシンボルロゴに進化したように、ロゴ変更によってブランドの変化を世界に発信することは、戦略的には筋が通っている。

 問題は、それを実際のサービスや地域への貢献がどれだけ裏打ちできるかだ。よーじやがこの先、ファンや顧客に新たな価値を提供し続け、説得力ある施策を積み上げれば、今の反発を糧にしてさらなるブランド成熟へつなげられるだろう。逆に、中途半端な施策やコミュニケーション不足に終われば、一時的な炎上だけが残り、ブランドイメージの低下につながりかねない。

 「悪手」と断じるか、「新生よーじやへの一歩」と評価するか。最終的には、よーじやの今後の行動と、それを見守る顧客(とくに長年のファンを含む地域住民や観光客)の視点が、その答えを左右するに違いない。

 企業が誠実にビジョンを示し、顧客がその変化を体験し、時間をかけて育まれるブランドこそが“強いブランド”である。よーじやがこの先、京都の老舗の枠を超え、「みんなが喜ぶ」存在となるのか――このリブランディングから生まれるストーリーに注目したい。

金森努(かなもり・つとむ)

有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師

金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。

2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。大学でマーケティングを学び、コールセンターに入社。数万件の「本当の顧客の生の声」に触れ、「この人はナゼこんなコトを聞いてくるんだろう」と消費者行動に興味を覚え、深くマーケティングに踏み込む。(日本消費者行動研究学会学術会員)。

コンサルティング会社・広告会社(電通ワンダーマン)を経て、2005年に独立。30年以上、マーケティングの“現場”で活動している「マーケティング職人」。マーケティングコンサルタントとして、B to B・Cを問わず、IT・通信、自動車・電機・食品・家庭用品メーカー、金融会社、生損保、自動車販売、EC等、幅広い業種に対応し、新規事業・新商品開発・販売計画・販売のテコ入れ案・コミュニケーションプランの策定等、幅広くマーケティング業務の支援を行っている。講師としても業種を問わず、年間100コマ以上の企業研修に登壇。コンサルティング経験を元に企業課題に合わせた研修のオリジナルのコンテンツやカリキュラムを提供。研修によってマーケティングを「知っている」だけではなく、「業務に生かせるようになること」にこだわっている。執筆は、「初めてでもマーケティングが楽しく体系的に学べる本」をテーマに10数冊刊行。「3訂版 図解よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)など。


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