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効率ばかり求めると失敗する──コンタクトセンターのAI活用、明暗を分ける“ある発想”とはAIコミュニケーションツールが変えるCXデザイン(2/2 ページ)

AIを活用しながらも満足度の高いCXをユーザーに届けるためには、人と接しているような分かりやすい会話と、ユーザーのニーズをきめ細かく想定したシステム設計を考慮すること──すなわちCXをデザインすることが必要とされています。

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コンタクトセンターのAI導入が失敗するワケ 深刻な“ギャップ”

 コンタクトセンターにAIを導入しようと考える企業の多くは、人材不足や採用難をAIによる自動化で解決したいというのが最大のモチベーションです。担当しているのはコールセンター運用の部門であり、顧客対応については知見もノウハウもありますが、AIについては知識がないケースも多いと思います。

 一方で、生成AIを使ったボイスボットのサービスを提供しているツールベンダーは、AIの専門家であって、顧客対応については知識や経験がないケースが多く見られます。自社のツールの性能や提供できる機能などを丁寧に教えてくれますが、それをどう使えばいいのかまでは導入企業側で考えなければならないことが多くあります。

 このように全く異なる分野の人同士で会話すると、お互いの言っていることがかみ合わず、目標としていた性能や成果に満たないボイスボットシステムができてしまうことも。AI導入の準備を進めるうちに、自社のコールセンターで「実現したいこと」から「実現できること」を優先とした導入となってしまうことすらあります。

 そうならないためには、優れたCX(顧客体験)を実現するという本質をブレさせないことが重要です。ツールを選ぶ時に、「どんな機能があるか、セキュリティ環境はどうか、障害があった時のサポートはどうか」を気にする方は多いですが、それと同じくらい重要なのが、「オペレーターが提供していたサービスと遜色ないCXが提供できるのか」です。ツール選定では、そこを忘れないようにしなければなりません。


写真はイメージ、ゲッティイメージズより

 そして、顧客対応の知見をAIの技術に落とし込む必要がありますが、これはそのツールに関する知識が必要なので、導入企業側では難しいでしょう。顧客考動、オペレーション、AI機能を理解し、よりCXを向上させるデザインしてくれる人、つまりCXデザイナーが、ベンダー側にも必要です。ツール選定の時には、「CXデザインや、それを改善してくれる体制はありますか」「CXにフォーカスした事例はありますか」と確認してみてください。

CXデザインで重要な3つのポイント

 ベンダー側が提案してきたデザインが、CXの観点で十分なのかどうかを判断するのは、最終的には導入企業側です。そういう意味で、導入企業側にもカウンターパートとしてのCXデザイン担当が配置されているのが理想です。ツール選定の段階から企業内CXデザイナーとして参加しておくと、話がスムーズに進むのでおすすめです。

 CXデザインという観点でのポイントには、例えば以下のようなものがあります。

(1)自然な会話

 人と接しているような自然な文章であることや、分かりやすい表現、音声はイントネーションなどが自然であることが必要です。不自然な文章やぎこちないイントネーションの音声は、ユーザーにとって違和感やストレスの原因になります。「人と話しているような感覚」により、ユーザーが直感的に操作しやすくなります。これはエフォートレスなCXデザインの基本であり、顧客の負担を減らし、満足度を向上させることにつながります。

(2)ユーザーが「?」と思わないような対話をする

 ユーザーがどのようなニーズがあってコンタクトしてくるのか、どのような順序で情報を聞けばいいのかなど、適切なジャーニーマップを考えることが重要です。また、情報量が少なすぎてもだめですし、逆に文章が長すぎても分かりにくいです。

 1つの質問で2つのことを聞くことは、ボイスボットを使い慣れていない人からみるとユーザーフレンドリーではありません。顧客が「この返答どういう意味?」「意図が分からない……」と感じると、理解するために“余計な努力”が必要になります。ユーザーが「考え込む瞬間」が増えると、「不安」や「不満」を持ち=そのサービスや企業への不信感につながってしまいます。

(3)「どう伝えるか」ではなく「どう伝わるか」で考える

 自分が考えたCXデザインに対して自分であら探しをするのは難しいので、チームを作ってレビューし合うのが、最初にできる取り組みです。また、社内の別の部署の人に試してもらうのもおすすめめです。

 ベンダー側がログの分析や、それを元にしたシナリオの改善などをやってくれる場合は、それがCXデザイナーとしてスキルアップしていく糧になります。ツール選定では、そのようなCX改善をどのくらいやってくれるのかも確認しましょう。

オムニチャネルとマルチチャネルは違う

 もう一つの注意点は、オムニチャネルとマルチチャネルを混同していないかということです。顧客の利便性を考えて、Web上のマイページとメールとLINEなど、さまざまなチャネルでサポート対応をしている例がありますが、同じメッセージがいくつも届いてうっとうしいと思われている可能性もあります。それ以上に、行動履歴や対話内容のログが統合管理できないと、コミュニケーションの最適化に活用できません。

 データが連携できていない、取得したデータを分類できてない、分析できてない、一連の流れで把握できていない──といった問題が生じやすくなります。

 ちなみに、顧客の行動を最も把握しやすいのは、やはりスマホアプリです。企業側の視点では、顧客接点をアプリに集中させると、その後のデータ活用がしやすくなります。ただし、アプリをダウンロードしてインストールしてもらうという一手間が必要になるため、顧客層によってはマッチしない場合もあるでしょう。とはいえ、アプリを使うのが一番便利だと思ってもらえるようにCXデザインを向上させることはおすすめです。

 次回は、CXデザインを活用した顧客対応の事例や、AIコミュニケーションツールの機能について解説します。

澁谷 毅(しぶや たけし)

株式会社トゥモロー・ネット 取締役 CPO

官公庁、地方自治体のコールセンターを経て、コンタクトセンターアーキテクチャとして、15年以上にわたりコールセンター構築業務に携わる。ヤマトコンタクトサービスでは、コンタクトセンターシニアアナリストとして、ヤマトグループや顧客企業のVOC(ボイス・オブ・カスタマー)をはじめとしたデータドリブン領域とAIを活用したCXデザイン、チャネルデザインの構築に携わり、「CX向上」とコンタクトセンターの「経営貢献」のモデリング創出をリード。現職では、ボイスボットとチャットボットが同時利用可能な「CXマルチモードAI」を開発し、同機能を搭載したAIソリューション「CAT.AI(キャットエーアイ)」のプロダクト開発責任者としてAIプラットフォーム事業を牽引している。


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