効率ばかり求めると失敗する──コンタクトセンターのAI活用、明暗を分ける“ある発想”とは:AIコミュニケーションツールが変えるCXデザイン(1/2 ページ)
AIを活用しながらも満足度の高いCXをユーザーに届けるためには、人と接しているような分かりやすい会話と、ユーザーのニーズをきめ細かく想定したシステム設計を考慮すること──すなわちCXをデザインすることが必要とされています。
澁谷 毅(しぶや たけし)
株式会社トゥモロー・ネット 取締役 CPO
AI時代の到来で、カスタマーサポートの現場は急速に変化しつつあります。ユーザーからの問い合わせは電話からメール、Webサイトへ、そして自動応答するチャットボットへと発展してきました。さらに最新のボットサービスでは、テキストだけでなく音声やカメラ、位置情報などさまざまな機能を組み合わせて使えるところまで進化しており、ユーザーがいかにストレスなく問い合わせを解決できるか、つまりいかに「エフォートレスな体験」を増やせるかが、CX(顧客体験)のキーワードになってきています。
AIを活用しながらも満足度の高いCXをユーザーに届けるためには、人と接しているような分かりやすい会話と、ユーザーのニーズをきめ細かく想定したシステム設計を考慮すること──すなわちCXをデザインすることが必要とされています。
本記事では、「AIコミュニケーションツールにおけるCXデザイン思考」をテーマに、CXデザインの重要性や考え方、具体的な事例とともに考察していきます。
合理化ばかり求められるコンタクトセンターの救世主 「CXデザイン」とは
そもそもCXデザインとは何を指すのでしょうか。生成AIに質問してみると、ChatGPTは以下のように回答します。
CXデザイン(カスタマーエクスペリエンスデザイン)とは、顧客が製品・サービスと関わる全ての接点で、最適で一貫した体験を設計・改善するプロセスを指します。CXデザインの目的は、ストレスのない快適な体験を提供することで顧客満足度を最大化し、ブランド価値および企業と顧客の関係を強化することです。
つまり、UI/UXデザイン(ユーザーインターフェース・ユーザー体験)よりも広範囲で、顧客の心理・行動・期待を深く理解したCXをデザインすることで、満足度やロイヤリティを高めることを目指すものです。
例えば、ECサイトでのスムーズな購入プロセスを設計したり、解約や変更手続きに対してユーザーがいつでも問い合わせできるように、チャットボットで24時間サポート対応を行ったりといった具体例が挙げられます。購入後のトラブルや疑問を問い合わせようと思った時に、カスタマーサポートに全然電話がつながらないようでは、その「顧客体験」は良いものとは言い難いのです。顧客にストレスを与えずに問題解決ができる満足度の高い体験を提供することが、現在のCXデザイン領域に求められています。
商品やサービスの購入後のサポートは、顧客体験を充実させるものとして非常に重要である一方、カスタマーサポートセンターや問い合わせ窓口は、これまではコストセンターと見なされることも多く、合理化ばかりが求められていました。しかし実際のところは、顧客の生の声を聞ける重要なポジションであり、サービス改善といったヒントも多く見つかるきっかけの場所でもあります。このような理由から、AIなどを使ってコンタクトセンターの問い合わせ対応を高度化するツールは、CX向上において重視されています。
なぜ「CXデザイン」が求められるのか 2つの理由
CXデザインの重要性については、大きく2つの背景があります。まず1つは、競争優位性の確立。市場が成熟し、商品やサービス自体の差別化が難しい時代になっているため、競争優位性を確立するには、優れた顧客体験を提供することが重要となります。
2つ目として、優れた顧客体験はロイヤリティ向上やビジネスの成長にも貢献します。顧客が「手間が掛かる」「分かりにくい」と感じる体験は、満足度を下げ、離脱や不満の原因になります。逆に、「顧客がストレスなく簡単に目的を達成できるようにすること(エフォートレスな体験)」を実現すると、「また使いたい」「このブランドは信頼できる」と感じてもらいやすくなるのです。
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