KDDIのDXブランド「ワコンクロス」 パートナー企業との「リカーリングモデルの利点」は?:変革の旗手たち〜DXが描く未来像〜(2/2 ページ)
KDDIは、DX推進を基盤とした新たなビジネスプラットフォーム「WAKONX」(ワコンクロス)を立ち上げた。なぜ、この異色のビジネスを立ち上げたのか。担当者に狙いを聞いた。
6協調領域の取り組み
――顧客に対し、具体的にどういった支援をしているのでしょうか。
現在ワコンクロスでは、バーティカルレイヤーの中で、特に重要なテーマとして6つの協調領域を設けて取り組んでいます。具体的には自動車などのモビリティ、リテール(小売)、ロジスティクス(物流)、ブロードキャスト(放送)、スマートシティ、そしてBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の6領域です。
まずモビリティ分野については、これまでのコネクテッドカーの取り組みをさらに発展させています。KDDIではトヨタ自動車との協業から始まったコネクテッドカー事業が現在ではマツダやスバルにも広がり、グローバル規模で3000万を超えるIDを管理しています。これは日本のスマートフォンID数を超える規模となっています 。
また、KDDIスマートドローンという子会社を設立し、ドローン事業も展開しています。KDDIも、ロボットを使った実証などロボティクス分野にも積極的に取り組んでいます。将来的な自動運転社会に向けて、24時間365日グローバルで運用してきた通信ノウハウを生かし、ロボットや自動運転技術の支援を進めています。
リテール分野ではローソンとの協業を通じて、小売業界特有の課題解決に取り組んでいます。特に人手不足の中で店舗運営を効率化するため、「KDDI Retail Data Consulting」というサービスを提供しています。このサービスは、商圏分析や新店舗出店候補地の選定などにおいて、店舗経営者に生成AIを活用したチャット形式で最適な立地条件などを提案する機能も備えています。
物流分野では、自社で物流センターを保有し、スマートフォンを含む移動機とその周辺商材のB2B、B2Cなどの配送業務を手掛けています。その中でデータ解析による効率化に取り組み、昨年には倉庫自動化を推進する子会社「Nexa Ware」(ネクサウェア)を設立しました。実際、自社物流センターのデータ分析によって出荷量が前年比1.4倍になる成果が得られ、このノウハウを商品化して外部にも提供しています。
スマートシティ分野では、JR東日本と共同で東京・高輪地区のスマートシティプロジェクトを展開しています。このプロジェクトでは都市計画や都市開発において、人流シミュレーションや災害時避難誘導、カスタマーが店舗へ訪れるための仕掛け作りなど、具体的な課題解決策を提供しています。この取り組みで得られた知見やノウハウは他の都市開発プロジェクトにも横展開していて、特に鉄道会社による都市開発案件への提案を進めています。
こうした6つの協調領域それぞれにおいて、KDDIは実際の現場や事業活動から得られる具体的なデータと知見を活用しながら、顧客が個別には投資しづらい協調領域への共通プラットフォーム提供という形で支援しています。また、それぞれの領域で培ったノウハウとデータ分析力、AI技術を融合させることで、多様な業界や社会課題の解決を進めています。
各協調領域の具体的取り組み
――スマートシティはネットワーク基盤の話なのでしょうか。
スマートシティの取り組みは、ネットワークだけでなく、シミュレーションやロボット、街を訪れる人向けのアプリの提供など多岐にわたっています。3月27日に開業した高輪ゲートウェイシティプロジェクトでは、データプラットフォームの構築や多様なデータ利用、さらには商圏分析などへの応用を検討しています。現在、プロジェクト内部ではビジュアル的にも具体化が進んでおり、スマートシティはさまざまな要素を総合的に組み合わせたものとなっています。
――放送分野とBPOについてはいかがでしょうか。
ブロードキャスト分野では、「5G SA」という無線技術を活用し、放送局向けに映像品質を維持しつつ中継のワイヤレス化を実現しています。従来のケーブルによる制約を解消し、例えば野球中継などで、より自由な撮影が可能になりました。実際に甲子園での実証実験では、ソニーグループと協力して放送品質に耐えうるワイヤレス中継を実現し、高い評価を得ています。
BPO分野では、(KDDIと三井物産の共同出資会社である)アルティウスリンク社と協力し、生成AIを活用したデジタルコンタクトセンターの構築を進めています。「Altius ONE for Support」というソリューションを展開し、コンタクトセンター業務の効率化と高度化を図っています。
――BPOに関して課題はありますか。
コンタクトセンターのデジタル化には課題もあります。KDDIの自社カスタマーケアセンターでの経験から、生成AIの導入初期段階では精度の問題(ハルシネーション)があり、クレームにつながる可能性があることが分かっています。そのため、現場での導入のネックになっていたといいます。現場で経験を培いながら、生成AIの導入を進めています。
KDDIでは、この自社カスタマーサポート現場で培った生成AIやデジタル化の運用ノウハウを、顧客に提供する商品やサービスに生かす取り組みを進めています。この経験をもとに、生成AIやデジタル化技術の効果的な導入と運用方法を確立し、より高品質なカスタマーサポートの実現を目指しています。
――自社のノウハウをサービスやプロダクトとして展開していくわけですね。
はい。物流やコールセンター事業など、私たちが自社で試行錯誤を重ねてきた現場の経験を生かし、それを顧客にも提供して支援していくことを、現時点で追求しています。
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