無人店舗の真の価値とは? 「無人×古着ビジネス」に見る新たな可能性:がっかりしないDX 小売業の新時代(1/2 ページ)
今回は、資本の小さな企業こそテクノロジーを活用することでビジネス機会が広がる事例を紹介。「無人店舗×古着ビジネス」の親和性について掘り下げていく。
連載:がっかりしないDX 小売業の新時代
デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
前回の記事「急成長のリユース市場、2030年には『4兆円』突破へ 業界の王者「ゲオHD」の強みは?」では、リユース市場の成長可能性と大手企業の戦略について紹介しました。
67兆円の「かくれ資産」に関連するビジネスは、大手やメルカリなどのCtoC事業だけではありません。ファッションリユースには、中小の古着店も多く存在しています。今回は、資本の小さな企業こそテクノロジーを活用することでビジネス機会が広がるという話です。
著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0』
無人古着店との偶然の出会い
北海道小樽市のショッピングセンターであるウイングベイを視察していた際に、ショッピングモール2階の一角に「STORAGE ZERO」という看板を掲げた古着店を見つけました。一見すると普通の古着店に見えましたが、入口付近に設置された顔認証システムが目を引きました。店内にはスタッフの姿がなく、完全無人の古着店だったのです。
STORAGE ZEROの最大の特徴は、入退店に顔認証を必須とする無人古着店という点です。通常の無人店舗で見られるアプリ登録やパスワード入力の手間を省き、「顔」そのものが鍵となるスムーズな入退店システムを採用しています。
このシステム導入の背景には単なる効率化以上の思想があります。無人化によって運営コストを抑え、多彩な品ぞろえと、スタッフの目を気にせず自由に商品を選べる空間を提供すること。そして、その自由さを支えるのが顔認証による高度なセキュリティです。
実際、開店以来1年以上にわたり万引き被害は報告されていないとのことです。「セキュリティが安心感を生む」という考え方が、このビジネスモデルの根幹となっています。
参照:国内初!顔認証×無人古着屋 ― 小樽発の未来型ショッピング体験(REDSTAR)
進化する無人店舗システム
STORAGE ZEROの利用は入口と出口に設置されたモニターでの顔認証から始まります。
ウイングベイの店舗は完全会員制であり、最初にモニターを通じて遠隔地のスタッフを呼び出し、その場で顔登録を行いました。顔登録を行うと入店用ドアの鍵が開く仕組みで、退店時と次回以降の入店は顔認証でドアの鍵を開けることができます。
実際に買い物をしてみると、店員に声をかけられることがないので、商品だけを見ることに徐々に集中していきました。80坪に約4000点の商品があるので、見て回るうちにかなりの時間が経っていました。
商品の金額タグは1100円から1万1000円までの10種類あり、セルフ会計の際にタグを切ってボックスに入れる仕組みです。
後日、初のフランチャイズ店舗である青葉台店(横浜市)に行きました。
ここで興味深いのは、店舗によってシステムに進化が見られる点です。ウイングベイ小樽の店舗では、未登録の場合は遠隔で人を呼び出して会員登録をする必要がありました。一方、横浜の青葉台店や小樽の2号店などの比較的小規模な店舗では、よりスムーズな入店を可能にする呼び出し不要の自動AIカメラシステムが採用されています。
青葉台店は2025年2月に開店し、小樽発のビジネスモデルの全国展開における試金石となっています。私が4月に訪問した際、店舗は通りから一本入ったところに位置しており、知らないと見つけるのが少し難しいロケーションでした。しかし、一度到着すれば、最新の自動AIカメラシステムにより、呼び出し不要でスムーズに入店できました。この洗練されたシステムは、都市型店舗における利用のハードルを下げることに貢献していると感じました。
古着の聖地 下北沢
古着文化の中心地といわれるのは、東京都世田谷区の下北沢です。小田急線と京王井の頭線が交差するこの街は、古くから若者文化の発信地として知られてきました。その中でも特に目を引くのが、驚異的な密集度を誇る古着店の存在です。
元々100店舗あった下北沢の古着店はコロナ禍後の2023年に約180店舗に増えたそうです。実際に下北沢の街を歩いてみると数メートルから十数メートルに1軒は古着屋という様相で、何店舗も続いている光景も珍しくありません。
参照:“古着の街”下北沢の客層が変化 古着屋の数は約2倍、家賃上昇の課題も(繊研新聞)
これだけ増えたのは、「開かずの踏切」解消を目的にした駅の地下化がきっかけでの再開発で、事業者である小田急電鉄、世田谷区、そして地域住民が「シモキタらしさ」(演劇、音楽、古着店などが混在する雑多な魅力)を生かした街づくりを目指し、徹底的な対話を重ねた結果ともいえます。
結果として、それらを目的に若者だけでなく、中高年や海外からのインバウンド客も来るようになっています。
下北沢に登場した新たな24時間営業古着店
そんな古着の聖地・下北沢に、2025年4月、新たな古着店が誕生しました。NebraskaとAVENDが共同で開業した「NOTIME 下北沢店」です。
NOTIMEの特徴は、STRAGE ZEROとは異なるアプローチで無人化を実現している点にあります。入店システムとして顔認証ではなく、LINE公式アカウントを友だち追加し、QRコードをスキャンすることで入店できる仕組みを採用しています。
さらに興味深いのは、完全無人ではなく、有人と無人の「ハイブリッド営業」を行っている点です。午前12時から午後8時までは有人営業、午後8時から翌午前12時までは無人営業という形で24時間稼働を実現しています。これにより、通常の営業時間外でも古着を探せる新たな買い物体験を提供しています。
筆者が午前11時過ぎに訪店した際には無人時間帯でしたが、作業をしている店員の方がいて、運良く無人の購買体験と有人アドバイスの双方を体験できました。
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