BYDの“軽”が日本に上陸 エコカー補助金の陰に潜む“監視リスク”:世界を読み解くニュース・サロン(3/3 ページ)
中国のEVメーカー、BYDが日本の軽自動車市場に参入すると発表した。中国製のEVを巡っては、欧米でセキュリティの懸念が指摘されている。多くの情報を収集するEVは、スパイ活動にも活用できると見られており、日本でも警戒が必要だ。
BYDは「DeepSeek」を導入
EVの話題はクリーンエネルギーとカーボンニュートラルに関連付けられることが多く、技術的なセキュリティ問題は、まだ本格的に議論されていない。さらに言えば、収集されたデータがどこに送信されるのか、または、どこに保存されるのかといった「データ主権」の議論も、ほとんどなされていない。最悪なのは、エコ対策ばかりに目が行って、セキュリティへの懸念が見過ごされてしまうことだろう。
日本の軽自動車市場に参入するBYDは、中国製の安価なAIである「DeepSeek(ディープシーク)」を、いろいろなモデルで導入すると発表している。それによって、運転アシスタント機能などがBYDの運転システムに組み込まれていくことになる。
この連載でもすでに取り上げているが、DeepSeekは中国情報機関などとつながりが強く、検閲が入っているという指摘がある。中国の国家情報法では、中国の企業や個人に対して情報機関への内部情報の提供が義務付けられており、DeepSeekもその対象とされる。
もっとも、こうした話はEVに限ったものではなく、従来の車でも中国製の通信機器や部品を搭載していれば、結局は同じように情報が漏れる可能性がある。
これまでは、中国製のIT機器に対しては、欧米政府がセキュリティ基準を厳格にしたり、政府系機関から排除したりして対応してきた。この対応を、車やバスなどのEVにも適用する必要が出てきたということだ。
この問題は英国に限ったことではない。中国の部品や技術は、その安さで世界的に普及してシェアを拡大しており、米国や欧州諸国でも同様の懸念が広まりつつある。
日本も他人事ではない。冒頭で触れた通り、これから日本で輸入が増えることになる中国製のEVについても、きちんと警戒すべきだろう。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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