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カスハラ加害者=消費者という思い込み 企業が従業員を守るために再確認すべきこと(3/3 ページ)

悪質なクレームなど、カスタマーハラスメント(カスハラ)防止を事業主に義務付ける法案が国会に提出されている。5月16日に衆議院を通過し、今国会で成立の見込みだ。罰則はないものの、すでに東京都では「カスハラ防止条例」が4月1日から施行され、多くの企業でカスハラ対策が進みつつある。

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取引先もカスハラ加害者になりうる

 セクハラ、パワハラなどは主な行為者が職場内に限定されるが、カスハラの加害者は外部の第三者である点に特徴がある。BtoC企業にとっては、消費者が加害者に該当するケースが多く、世間もカスハラの加害者=消費者との認識が強い。しかし、BtoB企業の場合、取引先の経営者や社員も加害者の対象になる。従業員に対する取引先のカスハラを見過ごせば、事業主の責任が問われることになるのだ。

 これに関して想起されるのが、中居正広氏によるフジテレビの元女性アナウンサーに対する性暴力事件だ。中居氏はフジテレビの明らかな取引先であり、そこから受けた重大な人権侵害の事実をフジテレビの幹部は隠蔽したばかりか、従業員の女性を守らず放置していた。これは、法律が規定する事業者の責務に違反する。

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提供:ゲッティイメージズ

 実はフジテレビの第三者委員会の調査報告書でも、カスハラとの関係に触れている。東京都のカスハラ防止条例や、現在進行中の政府のカスハラ防止法制定に言及し、こう指摘している。

 「2025年3月には日本政府も企業にカスハラ対策を義務付ける『労働施策総合推進法』の改正案を閣議決定した。このような法規制が導入される以前の段階でも、企業は、顧客からの苦情に対して労働者の生命、身体などの安全を確保するために必要な体制や措置等を講じるべきであるとの主張に基づき安全配慮義務違反が争われた判例も存在する。以上、カスハラを含め、各ハラスメント防止に向けた会社の整備状況が不十分であったり、リスク顕在時の対応が不適切であったりした場合には、法令違反に加え、安全配慮義務違反として法的責任を問われる可能性もある」

 つまり、第三者委員会もフジテレビの事件はカスハラ事案に該当すると言っているのだ。

 取引先からのカスハラには、セクハラやパワハラも当然含まれる。大手企業の中には、他社の従業員のセクハラから守る研修や指導を行っているところもある。

 ある大手食品メーカーは、取引先との1対1の食事を基本的に禁止している。法務担当役員は「例えば営業担当が女性で、先方のバイヤーが男性の場合、バイヤーから『飲みに行こう』と誘われても1対1では行かず、『上司と一緒に行きましょう』と伝えるように言っている。しかし、断ると営業に支障が出る恐れもある。その場合は『社内規程で1対1の会食は禁止されているので、上司や先輩と一緒でいいですか』と言うように指導している」と語る。

 2019年に改正された労働施策総合推進法(パワハラ防止法)では、事業主は、自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行った場合に、他社からの事実確認などの協力要請に応じる努力義務が設けられている。今後、カスハラ防止法が施行されると、他社の経営者や従業員からの、パワハラやセクハラを含むカスハラから自社の労働者を守ることが義務付けられる。

 カスハラに関しては、現場から報告がないので「当社は大丈夫」と思い込んでいる会社も結構ある。従業員が被害に遭ってからでは遅い。現場の情報をしっかりと吸い上げるルートを構築し、早期の防止につながる仕組みを整備すべきだろう。

著者プロフィール

溝上憲文(みぞうえ のりふみ)

ジャーナリスト。1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。


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