Sansan“超シンプルな新機能”で再攻勢 ターゲットは「名刺のお礼」送りきれない営業(2/2 ページ)
Sansanは名刺をスキャンするだけで相手企業に担当者のデジタル名刺を自動送付する新機能を発表した。営業DXツールは機能が多様化し、どんどん複雑になっているが、Sansanが今回提供するのはかなりシンプルなサービス。提供の狙いを聞いた。
B2B特化が可能にした完全自動化
同社の個人向け名刺アプリ「Eight」での経験も生きている。Eightにも類似の「お礼メール」機能があるが、小川氏は「PMFしていない」と率直に認める。それでもSansanでは成功が見込める理由として、B2BとB2Cの課金モデルの根本的な違いを挙げた。
「C向けの場合、ユーザーから課金することの難しさがある。課金ユーザーは一定数しかいない」。Eightは約350万〜400万人のユーザーを持つが、有料課金する利用者は限られる。こうした課金ユーザー向けにサービスを磨くことの「ビジネスボリュームの難しさ」が、機能開発への投資を制約してきた。
一方でSansanは約1万社の法人顧客を持ち、1社あたりの年間売上(ARPU)も個人ユーザーとは桁が違う。同社の2025年5月期第3四半期のSansan売上高は約67億円で、1社あたりの売り上げは年間200万円を超える。
Eightでは手動での操作が前提だったお礼メール機能も、Sansanでは完全自動化を実現した。「自動にしてくれたらお金払うのに、と思っていたユーザーもいたが、Eightだと単価とボリューム感で成り立たなかった」。B2Bなら自動化コストを価格に転嫁できるという判断が、新サービス開発の決め手となった。
特定の業界セグメントで強いニーズがあることが分かれば、そのセグメント内の企業から十分な事業規模を確保できる。展示会への出展が多い業界や、不動産・広告業界など、名刺交換の頻度が高い企業を特定し、集中的にアプローチする戦略だ。
営業DX市場、多機能なCRMが広がる中でSansanはどう差別化していくか
今回の新サービスは、より大きな構想の第一歩に位置付けられている。小川氏は「デジタル名刺ソリューションの先にあるのはオンライン側」と将来展望を語る。
コロナ禍を経てビジネスシーンはハイブリッド化が進んだ。対面での名刺交換は復活したものの、オンライン商談での「名刺交換がない」状況は課題として残ったままだ。Sansanも過去にQRコードを使った名刺交換機能を提供したが、「読み取りのタイミングを見極めるのが難しく、実際には定着しなかった」のが実情だった。
営業DX市場ではSalesforceやHubSpotなどの米国勢が多機能なCRM(顧客関係管理)システムで先行する。これに対しSansanは、日本特有の名刺文化に根ざした「渡す価値」の創造で差別化を図る。
同社の野心は、営業DXサービスとしての領域拡大にも及ぶ。従来は「名刺を受け取って管理する」市場の開拓に注力してきたが、今度は「名刺を渡す価値」という新たな市場の創造に挑む。これが成功すれば、名刺管理から営業活動全体をカバーする総合的なソリューションへの発展が期待できる。
新サービスによって、名刺交換した相手企業に自社のデジタル名刺が広まれば、Sansanブランドの認知度向上という副次効果も期待できる。「受け取った相手は、なぜこの会社からデジタル名刺が届くのかと疑問に思う」。こうしたブランド体験の積み重ねが、名刺管理サービスの新規顧客獲得につながり、1万社から2万社への拡大を後押しにもつながる。小川氏は「当社にとっては強みを生かした形で勝負ができる領域」と自信を示した。
【お詫びと訂正:5月26日午後2時00分の初出で、「2025年5月期第3四半期までのSansan売上高は約67億円」としておりましたが、正しくは「2025年5月期第3四半期のSansan売上高は約67億円」でした。5月27日午前9時30分、該当箇所を修正いたしました。お詫びして訂正いたします。】
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