コース料理込みで2万4800円! エンタメの常識を覆す「没入型コンテンツ」のすごさとは:廣瀬涼「エンタメビジネス研究所」(4/4 ページ)
イマ―シブ・フォート東京の新演目『真夜中の晩餐会〜Secret of Gilbert's Castle』。代金はコース料理込みで2万4800円と高額だが、実際に体験してみると従来とはまた違う「体験」があった──。
構造の違いから見る「イマーシブ」の本質
筆者はイマーシブコンテンツを研究する上で2つの側面からそのコンテンツを検討することにしている。
まず、「傍観型」か「非傍観型」かということである。「傍観型」とはVR体験や従来のミュージカルやコンサートのように自身が特に何もする必要がなく、視覚的な情報で別世界に没入できるようなコンテンツを指す。傍観型コンテンツは、提供されるコンテンツが技術革新によって成立する。「非傍観型イマーシブ」は生のライブ性によって生み出される非再現性に自身が巻き込まれることで「歩く・走る・思考する・役を演じる」といったように、そのコンテンツを成立させる当事者となって能動性や主体性が必要とされるという特徴を有している。
それゆえに、筆者はそのコンテンツを「自由度」(選択・行動の幅)と「主体性」(能動的に関与する度合い)の二軸で評価している。
- 右上(自由度高 × 主体性高)
イマーシブ・シアターやマーダーミステリーといった、観客自身が空間やストーリーに能動的に関与し、自ら選択・行動することで体験が成立する非傍観型コンテンツが配置される。
- 左下(自由度低 × 主体性低)
VR体験や展示型コンテンツなど、主に視覚的な刺激を通じて没入感を得る傍観型コンテンツが位置する。
- 右下(自由度高 × 主体性低)
世界観を再現したテーマパークやお化け屋敷などのウォークスルー型アトラクションなどが挙げられ、参加者は自分のペースで空間を探索することはできるが、ストーリーの進行や関与は限定的である。
- 左上(自由度低 × 主体性高)
謎解きやコンカフェなどが位置づけられ、ある程度決められた設定の中で、参加者自身が考えたり演じたりする能動性が求められる体験が該当する。
視覚的演出によって強い没入感が得られる傍観型の体験もあれば、マーダーミステリーのように、自身が特定の役割になりきることで、主体的に物語へ没入する形式もある。
また、実際はそれぞれの要素が複合し合っているのが現実である。『真夜中の晩餐会』でも確かに高い主体性が求められる一方で、そこまで役や物語に没入できるのは舞台装置などハードの作り込みも重要要素であり、視覚的情報と能動性が複合的に没入感に作用しているわけである。従って、非傍観型、傍観型「どちらがより没入できるか」という議論は本質を捉え損ねており、不毛であると筆者は考える。
一方で、『ザ・シャーロック』と『真夜中の晩餐会』ではどちらも、「自由度高×主体性高」のイマーシブシアターに位置付けられている前提であっても、おのおの没入度を高めている要素が異なっている。
『ザ・シャーロック』における没入感は、「観察と選択の自由」によって生み出されている。参加者は登場人物の行動を追う中で、自らどの物語の断片に立ち会うかを選ぶことになる。誰を追うか、いつ・どこにいるかといった選択によって、目にする物語の構成が大きく変化するのだ。この体験において能動性は主に「演じること」ではなく、「選ぶこと」として発揮される。与えられた自由の中で、どのように関わるかを自分で決めることが、物語との距離を縮める鍵となる。
さらに、本作の物語は「全容を知ることができない」という設計になっており、その断片性や情報の偏在そのものが、現実世界における知覚と酷似している。全てを見届けることはできないという構造が、かえってリアルな没入感を生み出しているのである。
『真夜中の晩餐会』における没入感は、「当事者としてその世界を生きる感覚」によって生み出されている。参加者は最初から名前や背景設定を与えられ、物語の中に存在する一人の登場人物として振る舞うことが求められる。
加えて、演じる一方で、参加者は物語の展開そのものを把握しようとする“観察者”としての視点も求められる。つまり、自らがその世界の住人として存在しながらも、「今、何が起きているのか」「誰が何を企んでいるのか」といった物語の進行を追う姿勢が不可欠なのである。
このように、本作では演者と観察者、当事者と理解者という2つの役割を同時に引き受けることによって、より複雑で深い没入感が成立している。
「能動性」「自由度」「物語との距離感」がバランスよく設計され、それぞれが異なる“没入の入口”を提供している。『ザ・シャーロック』は「知らなさ」や「偶然」すらも演出に取り込むことで、“観察者である自分”にリアリティーを与えている。『真夜中の晩餐会』は「役割を生きる」ことを軸に、“物語の登場人物になってしまった自分”を徹底的に体験させる。つまり、一方は「距離を取った観察による没入」、もう一方は「役割の遂行による没入」という形で、異なる設計思想で同じく高い没入体験を実現しているのだ。
後編では、『真夜中の晩餐会』での「食とイマ―シブ」の体験について、USJやディズニーなどのエンターテインメント施設の事例と比較し、分析する。
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著者紹介:廣瀬涼
1989年生まれ、静岡県出身。2019年、大学院博士課程在学中にニッセイ基礎研究所に研究員として入社。専門は現代消費文化論。「オタクの消費」を主なテーマとし、10年以上、彼らの消費欲求の源泉を研究。若者(Z世代)の消費文化についても講演や各種メディアで発表を行っている。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」、TBS「マツコの知らない世界」、TBS「新・情報7daysニュースキャスター」などで製作協力。本人は生粋のディズニーオタク。瀬の「頁」は正しくは「刀に貝」。
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