「SaaS買いすぎ問題」が深刻化 「CDP」大手・トレジャーデータがMA市場に参入、勝ち筋は?
トレジャーデータは6月5日、マーケティングオートメーション(以下、MA)「Engage Studio」の提供を開始する。
トレジャーデータは6月5日、マーケティングオートメーション(以下、MA)「Engage Studio」の提供を開始する。
「CDP(Customer Data Platform)とAIを土台とした『AIファースト』の考えのもと、顧客理解から施策実行、改善までを一気通貫で支援していく」──10年以上にわたりCDPを提供してきた同社は、蓄積してきたクリーンなデータを活用し、AI製品の開発を強化していく方針だ。
同社が新たにMA市場に参入する背景には、顧客の「SaaS買いすぎ問題」があると、太田一樹CEOは語る。
「SaaS買いすぎ問題」が深刻化
太田氏は現状企業が抱えている課題を3つ紹介する。
1つ目は「SaaS買いすぎ問題」だ。2020〜2021年ごろにSaaS導入が急速に進んだ一方で、使い切れていないライセンス費用が経営課題となっているケースが多い。「MarTech(マーケティングとテクノロジーを組み合わせた造語)の分野だけでも世界で1万5000社がひしめく。エンタープライズ、SMB(Small and Medium Business、中小企業)にかかわらず、SaaSの統合が進んでいる」(太田氏)
2つ目はSaaSツールの機能過多。「機能を使いこなせていない」「ツールを活用できる人材とそうでない人材でスキルに差がある」といった課題意識があるという。
そして最後に巨大SaaS、MarTechベンダーの技術停滞を挙げる。
「現在MarTech市場では、30年ほど前に開発された製品が使用し続けられており、当社でもモダナイズ(レガシーシステムの刷新)の依頼を多くいただいている。MAツールを提供する企業はこれまでM&Aで大きくなってきた歴史がある。そうではなく、今はさまざまな部門、ユースケースで活用できるサービス提供が求められていると考えている」(太田氏)
こういった課題を背景に、顧客から「導入するSaaSツールの数を減らしたい。CDPとMAを一緒に提供してほしい」という要望があったといい、今回AIを活用したMAツールの提供を決めた。
「Engage Studio」では、チャットで、自然言語で指示を送信するだけで施策が完成する。セグメント設定、ジャーニー設定、メッセージの作成と配信、全工程をサポートする。キャンペーン効果(平均LTVや顧客単価平均)も可視化されるため、マーケターはキャンペーンの進捗や成果を見ながら、PDCAを迅速に回すことが可能になるという。
他社でも同様のAIエージェントサービスが提供されているが、同社の強みは、「インテリジェントCDP」で蓄積したクリアな顧客データを基盤にすることで、生成AIによる提案のレベルを高められる点にあるという。
太田氏は「CDPの市場は約150億円程度に対し、MAの市場はトータル345億円ある」と期待を語る。
「MAも1to1マーケティングも嘘」 キャンペーンを“火付け役”で終わらせない
6月5日に開催した記者発表会では、既にMAツールを導入している日本ケンタッキー・フライド・チキン(以下、日本KFC)の池照直樹CDTO(Chief Digital Technology Officer)が登壇。池照氏はこれまでカインズや、宿泊予約事業を展開するゆこゆこホールディングでMA活用に取り組んできた経験を振り返り、以下のように語る。
「MAという言葉は嘘で、何もオートメーションしてくれなかった。(キャンペーン施策を考える際に)自動的にセグメンテーションを設定するのは難しく、ヒトがかなり頭を使ってやってきた部分が大きい。同様に1to1マーケティングも不可能。もし100人顧客がいたら、100個のコンテンツを作らなくてはいけないが、人手が足りるはずがない。MAも1to1マーケティングも嘘だと思っていた」(池照氏)
これまでの日本KFCのマーケティング施策について「キャンペーンに頼りすぎていた」という。キャンペーンは来店促進の“火付け役”的な役割を担う一方、その成果は一時的なことが多い。同社でも、キャンペーンを打ったはいいが、顧客が定着せずに延々とキャンペーンを繰り返す──という状態になっていたという。
「キャンペーンをやればピークを作ることができる。しかし、100集客したところを0にしてしまっては意味がない。キャンペーン終了後を20にできれば、次にキャンペーンを打ったら120まで伸ばせる。キャンペーンを打った時に得た顧客をリピーターにして客数を下支えしてくことが重要だ」
そこで同社は、キャンペーンを打った後の顧客管理を強化しているという。MAで質の高いセグメンテーションを自動で設定できれば、1to1マーケティングを実現する可能性が見えてくると、池照氏は語る。
昨今、マーケターの業務を自動化するAIエージェントの新製品を、各社が続々と投入している。AI活用で質の高いキャンペーンを実行できるようになれば、マーケターはより顧客満足度を向上させる施策や、会社全体の収益を高めるための戦略検討に時間を割けるようになるかもしれない。今後、各社でマーケテイングチームの業務がどう変わっていくのか、注視していきたい。
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