部下への「プロンプト指導」、できますか? AI時代に必須になる「3つのスキル」:AI・DX時代に“勝てる組織”(1/2 ページ)
「部下のAI活用法のレビュー・指導」が上司の役割になる──そう言われると、ドキッとする管理職の方は多いかもしれません。AI時代に求められる3つのスキルを解説します。
連載:AI・DX時代に“勝てる組織”
AI時代、事業が変われば組織も変わる。新規事業創出に伴う人材再配置やスキルベース組織への転換、全社でのAI活用の浸透など、DX推進を成功に導くために、組織・人材戦略や仕組みづくりはますます重要になる。DX推進や組織変革を支援してきたGrowNexus小出翔氏が、変革を加速させるカギを探る。
「部下のAI活用法のレビュー・指導」が上司の役割になる──そう言われると、ドキッとする管理職の方は多いかもしれません。生成AIの進化は、私たちの働き方、そして企業の在り方に、かつてないほどの速度と深度で変革を迫っています。
驚くべきはその生産性向上の効果です。比較的導入が進んでいる大手企業では、月に数十万時間の工数削減につながっているケースも珍しくありません。海外ではさらに活用が進んでおり、AI画像生成サービスを開発・提供している米Midjourneyは、10人ほどの規模で年間収益を約2億ドル(約300億円)も稼いでいます。
こうした大きな生産性向上が見込める生成AIの導入・活用について、一部の企業では汎用的な生成AIツールの導入に踏み出し、具体的なユースケース集の整備や社内勉強会の開催を通じて、その活用と浸透を図ろうとする動きが活発化しています。
一方、まだその数は多くはありません。矢野経済研究所が発表した国内の生成AI活用に関する調査結果では、2024年時点で「全社的に活用している」が4.0%、「一部の部署で活用している」が21.8%にとどまっています。総務省の「情報通信白書(2024年版)」でも、生成AIを個人利用している割合は日本が9.1%。中国(56.3%)、米国(46.3%)、ドイツ(34.6%)とは大きな開きがありました。
筆者の所見では「企業は導入の機運を高めているが、社員個々人として活用できている層は限られる」というのが日本の現状なのではないかと感じています。組織内にAIを積極的に試す層は存在しますが、このような層は企業が公式な方針を打ち出す前から、個人的に、あるいは部門内で生成AIツールを自発的に活用し始めていたのではないでしょうか。その意味で、国内外だけでなく国内でも企業間、または企業内の個人間に生産性の二極化が生じています。
これらを踏まえると、先行層だけでなく、変化に対してより慎重な層を含めた社員の大多数に対し、いかにAIを業務に組み込んでもらうかが決定的に重要となります。このことは、社員一人一人の業務内容だけでなく、働き方全般に影響を及ぼします。AI時代に求められる3つのスキルを解説します。
「AIを前提とした働き方」を、組織に浸透させるには
2025年6月現在、生成AIの文脈推定能力や推論能力は目覚ましく向上しています。かつて重要視された複雑な「プロンプト手法のテクニック」よりも、「いかに的確な問いを立てられるか」という、より本質的な能力がAI活用の成果を左右する時代へと移行しつつあります。
ChatGPTを始めとする生成AIが普及し始めた「GPT-3」や「3.5」の時代は、プロンプトの工夫をしないと良い回答を生成してくれませんでしたが、最近の「o3」や「Google Gemini 2.5 Pro」などは、「思い付いた問いを、長々と音声入力する」だけで、非常に高い精度で回答を生成してくれます。
AIを使って情報を検索し、アイデアの壁打ちをし、文章のドラフトを作成することは、近い将来、PCで文書を作成したり、インターネットで情報を検索したりするのと同様に「当たり前の業務行為」となるでしょう。
重要なのは、この「当たり前」をいかに組織全体の生産性向上とイノベーション創出につなげるかです。一人一人がAIの出力の前段階で「何を」「なぜ」「どのように」問うべきかを思考し、AIが出力した内容を鵜呑みにせず、批判的にレビューし、自らの知見と経験を加えて磨き上げます。こうした一連のプロセスを、個々の社員だけでなく、組織全体で標準化される必要があります。
多くの日本企業のAI関連の取り組みは、「汎用的生成AIツールの導入」「ユースケースの整備」「勉強会の実施」などにとどまっています。本稿の目的は、そこから一歩進んで「AIを前提とした働き方=AI標準の働き方」を策定し、経営層から現場の社員一人一人に至るまで、その標準に則って業務を遂行することの重要性を提言することにあります。
ではここからは、AI標準の働き方を全社に導入・定着させるためのステップや、具体的なロードマップ例を、グローバル企業の先進事例やAI時代の人材育成の観点も交えながら、詳細に解説していきます。
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