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部下への「プロンプト指導」、できますか? AI時代に必須になる「3つのスキル」AI・DX時代に“勝てる組織”(2/2 ページ)

「部下のAI活用法のレビュー・指導」が上司の役割になる──そう言われると、ドキッとする管理職の方は多いかもしれません。AI時代に求められる3つのスキルを解説します。

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働き方はこう変わる

 AI標準の働き方とは、AIが特別なツールではなく、メールや検索のように、あらゆる社員にとって日常業務を遂行する上で当たり前の存在として活用される状態を指します。そこでは、人間とAIがそれぞれの強みを生かして協働し、生産性と創造性を飛躍的に高めます。


(提供:ゲッティイメージズ)

 前回の記事『AIで浮いた人材は、切らずに「玉突き」せよ AI時代の経営“新常識”とは』で示したように、企業が業務フローに組み込むべき生成AI活用の標準サイクルが、AI標準の働き方のベースとなります。具体的には、次の通りです。

(1)AIによるドキュメント作成・リサーチ

 現場担当者は、資料作成のドラフト、報告書の骨子、要件定義書の下書き、情報収集といった定型的な作業をまず生成AIに任せます。これにより、人間は企画や戦略立案といった上流工程(発想部分)に注力できます。

(2)上司への提出とプロンプト情報共有

 作成したアウトプットとともに、AIにどのような指示(プロンプト)を与え、どの程度AIの助力を得たかを上司と共有します。成果物だけでなく、生成AIの使い方自体がレビュー対象となるのです。

(3)上司・レビュアーによる内容と利用方法のチェック

 上司は、内容の正確性(ハルシネーションの有無)、文脈適合性に加え、AIの活用方法についてもフィードバックします。東京都デジタルサービス局のガイドラインでも推奨されているように、AIが生成した回答をそのまま使用するのではなく、必ず人の目で内容を適切か確認し、必要に応じ修正してから使う検証プロセスは不可欠です。

(4)プロンプト手法に対するフィードバック

 上司は、より効果的なプロンプトの設計や改善方法について具体的な助言を行います。「この要件を強調するキーワードを追加してはどうか」「出力文体を変える指示をすると精度が上がる」といったフィードバックを通じて、担当者はAIへの効果的な指示出し(プロンプト技術)を学習します。この「プロンプト」→「レビュー」→ 「改善・再生成」のループが、重要な訓練機会となります。

(5)プロセスの標準化・ナレッジ共有

 上記サイクルを組織の公式業務手順として明文化・標準化します。また、チーム内で効果的だったプロンプト事例を共有する場を設け、テンプレート化を進めることで、組織全体のAI活用レベルを引き上げます。

 これらのサイクルは、AI時代に必要な「AI操作リテラシー」とも深く関連します。具体的には「文脈認識力(経営目標や課題背景の明確化)」「言語化能力(AIへの適切なインプット・プロンプト)」「クリティカルシンキング(回答の批判的レビューと再質問)」、そして「編集力(最適なアイデアの抽出・編集)」といった能力が、サイクルを回す上で中核となるでしょう。

AI時代に社員が身に付けるべき「3つの能力」

 AIが定型業務を担うようになると、従来の「先輩の指示で資料を作り、赤入れされながら学ぶ」といったOJTの在り方も変革を迫られます。「若手が汗をかいて資料を作る機会が激減する」という懸念もあるでしょうが、これはむしろ、新人・若手がより本質的なスキルを早期に習得する好機と捉えるべきです。

 AIを「賢いアシスタント」として活用することを前提にして、これから人間が磨くべきなのは、次の「三本柱」とも呼べるスキルです。

(1)AI操作リテラシー

 前述の通り、AIとの対話(プロンプト設計・実行)と出力内容の検証・編集は、今後あらゆるビジネスパーソンの基礎スキルとなるはずです。OJTでは「プロンプト」→「レビュー」→「改善・再生成」のループを高速で回す訓練が中心になるでしょう。指導役の上司や先輩も、プロンプト設計やAI出力の批判的吟味の仕方を指導する形にシフトする必要があります。

(2)ゴール・課題設定力

 AIは優れた回答者ですが「何を問うか」「どの課題を深掘りするか」を決めるのはあくまで人間です。そもそもビジネスの価値や社会課題の本質は、データ分析だけでなく、顧客との対話や現場での観察といったリアルな接点から見いだされることが多いものです。そのため、若手であってもAIを壁打ち相手としながら、自ら課題を発見し、価値を提案する「起点力」を養う教育が重要になります。OJTにおいては、現場観察や顧客訪問などの実地体験とAIによる情報収集・分析を組み合わせる機会を意図的に設けるべきでしょう。

(3)実行巻き込み力(チェンジマネジメント)

 AIがどれほど優れた分析や提案を生み出しても、それを組織内で合意形成し、関係者を動かして実行に移すのは人間の役割です。特に、多様なステークホルダーが存在する場面では、対人折衝、リーダーシップ、ファシリテーションといった「人間の影響力行使」が不可欠です。新人・若手にも、AIで作成した提案を基に小規模なプレゼンやチーム内改善のリーダーを任せるなど「人を動かす」実践経験を早期から積ませることが、AI時代における重要な人間領域のスキル育成につながるはずです。

「AI標準の働き方」が浸透した組織はどうなるか

 AI標準の働き方が組織に浸透することで、企業は多大なメリットを享受できます。冒頭で触れたような業務効率の大幅向上はその一つです。全社的にAI活用レベルが向上すれば、組織全体の業務効率は飛躍的に高まります。例えば宮崎銀行では、生成AIの活用によって、行員が手作業で行っていた融資稟議書作成にかかる作業時間を95%削減する大きな成果をあげています。

 イノベーションの加速も、生成AIの活用によって企業が得られるメリットです。 定型業務から解放された社員は、より創造的で付加価値の高い業務に時間を割けるようになります。AIによる多角的な情報収集や分析は、新たなアイデアの着想やビジネスモデルの創出を促進するでしょう。DeNAでは南場智子会長自ら「約3000人で運営している事業を、AI活用により半分の人員でも成長させる」と意思表明し、省力化した分の人材を新規事業や新領域のサービス開発へ再配置する方針を示して話題を呼びました。

 従業員のスキルアップとエンゲージメント向上も見逃せません。AIスキルは、現代のビジネスパーソンにとって必須の能力となりつつあります。企業がAI活用の機会と教育を提供することは、従業員の市場価値向上につながり、学習意欲の高い人材のエンゲージメントを高めます。「若手人材はAIを学べる会社を選ぶ時代」ともいわれ、採用競争においても有利に働くでしょう。

 最後に、競争優位性の確立も挙げておきます。これからAIに順応できなかった企業はAIによる社会変革の影響を大きく被る可能性が大いにあります。全社的にAIを使いこなし、データを活用して迅速な意思決定を行える企業は、持続的な競争優位性を維持できるのです。

 次回の記事では、実際にAI標準の働き方を全社に浸透させるためのステップや、注意点などを解説していきます。

この記事を読んだ方に AI活用、先進企業の実践知を学ぶ

ディップは、小さく生成AI導入を開始。今では全従業員のうち、月間90%超が利用する月もあるほどに浸透、新たに「AIエージェント」事業も立ち上げました。自社の実体験をもとに「生成AIのいちばんやさしいはじめ方」を紹介します。

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