商談の「空気感」まで言語化 AIで対面営業を「データ化」する新常識とは?:「音声×AI」が変えるビジネスの未来
生成AI技術が加速度的に進化する中、対面商談における「温度感」や「ニュアンス」さえも、AIが言語化する可能性が開きつつあります。AIは、対面商談にどのような付加価値をもたらすのか、解説していきます。
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連載:「音声×AI」が変えるビジネスの未来
営業現場には、いまだ活用されていない「対面商談データ」が眠っている。オンライン会議の普及で録音・録画データを活用する機会が広がる一方、対面商談は今なお属人的な記憶やメモに頼る場面が多い。本連載では、最新の会話解析AIを活用し、対面の営業活動を可視化・構造化するアプローチを紹介。CRMやSFAとの連携による「営業DX」の最前線を、RevComm(東京都渋谷区)の松本佳樹氏が解説する。
多くの企業で、データに基づいた営業活動が進んでいます。顧客管理システム(CRM)や営業支援システム(SFA)の導入は一般的になり、電話やオンライン商談のログも蓄積されるようになりました。
しかし、営業活動の重要な一部である「対面商談」のデータは、依然として十分に活用されていないのが実情ではないでしょうか。
対面での商談には、契約締結や意思決定に直結する重要な情報が数多く含まれています。しかし、このような情報は、営業担当者の記憶やメモとしてしか残らず、顧客の「温度感」や「ニュアンス」を含めて組織全体に正しく共有し、有効活用されることはほとんどありません。
生成AI技術が加速度的に進化する中、こうした対面商談における「温度感」や「ニュアンス」さえも、AIが言語化する可能性が開きつつあります。AIは、対面商談にどのような付加価値をもたらすのか、解説していきます。
著者プロフィール:松本 佳樹(まつもと・よしき)
新卒でリクルートグループへ入社。エンジニア領域における人材紹介・派遣を担当。国内最大手の通信企業やネット広告代理店などのエンタープライズ領域の深耕営業から中小企業領域における新規開拓を通して、幅広い業界や業種へ人材サービスを提供。
その後、求人検索エンジンを運用するIndeed Japanに1年間従事した後、2020年よりRevCommのインサイドセールスグループ・BDR立ち上げメンバーとして参画。
2025年より対面会話解析AI「MiiTel RecPod」のプロダクトマーケティングマネージャーを担当する。
「対面商談データ」の非活用がもたらす機会損失
対面商談データが十分に活用されない背景には、いくつかの課題が存在します。
対面商談は、その場に同席しない限り、優秀な営業担当者がどのように話を進め、顧客と関係を構築しているのかを具体的に把握することが困難です。結果として、個々の営業担当者のスキルや経験に大きく依存する「属人化」が進みます。
また、優秀な営業担当者は、顧客が快適に感じる話し方や、相手の心をつかむフレーズを自然と使いこなしていることがあり、これらのスキルは言語化されにくい「暗黙知」としてとどまりやすく、ナレッジの共有ができず営業組織全体でのスキルアップが困難になっています。
商談後の記録作業は、多くの営業担当者にとって大きな負担です。
特に訪問営業では移動時間も加わり、商談内容をCRMやSFAに詳細に入力する時間を確保するのは容易ではありません。結果として、記録は簡素化されたり、重要な情報が抜け落ちたり、担当者のバイアスがかかり、不正確な情報が入力されたりするケースが発生します。
さらに、営業担当者による商談記録では、顧客の感情のトーン、声の抑揚、話すスピードといった非言語情報までを捉えることはできません。顧客の真のニーズや潜在的な課題、サービスに対する期待や懸念を読み取るための「感情の機微」は、商談の成否を分ける重要な要素です。これらがデータとして残らないことは、営業戦略を立案する上で大きな機会損失につながります。
また、カスタマーハラスメントなどの顧客からのハラスメント対策や担当者による不正行為といった、コンプライアンスに関わる問題が発生した場合、これらの非言語情報が記録されていないと、正確な事実確認や適切な対策を講じることが極めて困難となります。これは、企業のリスク管理という観点からも看過できない課題です。
営業担当者の育成という観点でも、マネージャーが具体的なフィードバックをする際に、商談の場に同席しない限り、報告書や本人の記憶に頼るしかありません。これでは、具体的な会話内容に基づいた的確なフィードバックは難しく、抽象的な指導に終始しがちです。営業担当者自身も、何が課題だったのかを把握しづらく、成長の機会を逃してしまうことがあります。
AIで対面営業を「データ化」する新常識
これらの課題を解決し、対面商談に新たな価値をもたらすのが、対面会話解析AIです。
対面会話解析AIは、商談の音声を録音し、AIが解析することで、商談内容を自動で文字起こしし、要約して議事録を作成します。さらに、SalesforceやkintoneといったCRM/SFAと連携することで、商談後に自動的に活動記録を残すことが可能になります。
さらに、AIが話し方や感情を解析することによって、顧客の声の大きさ、抑揚、話すスピードなど声の特徴と、話している内容の両方を踏まえて、顧客の感情を分析することもできます。これにより、商談内容を「誰が、いつ、どの業界の、どの担当者と、何をどのように話して、その結果どうだったのか」といった構造化されたデータとして蓄積できるようになります。
このような構造化された音声データを蓄積することで、以下のようなメリットがあります。
ノンコア業務の削減
AIによる議事録生成や、CRM/SFAとの自動連携により、商談記録の手間が大幅に削減されます。また、音声データの聞いてほしい箇所を指定して共有すれば、ニュアンスや緊急性も正確に伝えられるため、社内連携もスムーズになります。
営業担当者は商談中は会話に集中でき、報告業務が削減された分、顧客提案や顧客との関係構築に、より多くの時間を割けるようになります。
営業スキルの向上とナレッジ化
話し方解析の結果をもとに、営業担当者自身が「どのような話をした際に相手が反応を示したのか」を客観的かつ定量的に振り返ることができ、自分で時間をかけて分析をしなくても、セルフコーチングが可能となります。
さらに、優秀な営業担当者の会話パターンや、顧客の反応が良いフレーズなどを可視化し、営業組織全体の「資産」として蓄積・活用できます。これにより、新人教育や定期的な研修に効果的に組み込むことで、組織全体の営業スキルを底上げし、再現性のある営業プロセスを構築することが可能になります。
精度の高い営業戦略の立案
これまでの手入力では把握しきれなかった、顧客の詳細なニーズや課題、潜在的な要望を深く理解できるようになり、よりパーソナライズされた提案やフォローアップを実施し、顧客満足度の向上につながります。
さらに、蓄積された対面商談データを分析することで、特定の業界や顧客層における効果的なアプローチ方法、競合他社との差別化ポイントなど、これまで見えなかったインサイトを獲得し、より精度の高い営業戦略を立案できるようになります。
コンプライアンス対策
商談内容が正確に記録されるため、顧客との認識齟齬(そご)や「言った言わない」といった問題が発生した際の事実確認が容易になります。これにより、顧客とのトラブルを未然に防ぎ、迅速な解決につながります。
特に、顧客からのハラスメントや、営業担当者による不適切な接客や不正行為の早期発見・防止対策として、会話内容の客観的な記録は、適切な事実確認を可能にします。
かつては、音声解析の活用を監視されているように感じて、抵抗感を持つ営業担当者も少なくありませんでした。しかし、コロナ禍でオンライン会議が普及し、録音・録画がビジネスシーンで一般的な習慣となり、議事録作成などAIの利便性を実感する機会が増えたことで、その意識は大きく変化しています。
対面での会話をデータ化する音声解析は、もはや一方的な「監視」ではなく、営業担当者自身の成長を加速させ、日々の業務効率化を推進するためのツールとして認識され始めています。この未活用の「対面商談データ」こそ、ビジネスを次のレベルに引き上げる大きなチャンスを秘めています。
次回はデータ化された対面商談の情報をCRMやSFAと連携することによるメリットや、具体的な活用例についてより具体的に解説します。
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