最初は衝突が絶えなかった──クレディセゾンCDOに聞く、エンジニアが徹底する“とある原則”とは?:3年連続「DX銘柄」選出(2/3 ページ)
クレディセゾンが、経済産業省の「DX銘柄」に3年連続で選出された。華々しい成果の裏側には、苦労も多かった。“攻め型”の「テクノロジーセンター」と、“守り型”の既存のIT部門で、さまざまな衝突があったというのだ。
安定重視Vs.スピード重視──異なる価値観で衝突が絶えない時期も
しかし、輝かしい成果の裏には、組織内での文化的衝突もあったと小野氏は振り返る。
「あるとき、私と同じチームのエンジニアが、業務外で他部署のECサイトのパフォーマンスを調べたんです。特定の時間帯でレスポンスが遅いことを発見して、担当部署のSlackに『これ大至急改善した方がいいです』と投稿したんですよ」
突然の投稿に、担当部署は困惑した。頼んでもいないのに、他部署のエンジニアがいきなり業務に口を出してきたのだから。
「『小野さん、あれは何なんですか?』と問い合わせが来ました。知らない人が、いきなり土足で踏み込んできたようなものですからね」
一方、エンジニアの言い分はシンプルだった。「お客さまから見たらセゾンはセゾン。部署なんて関係ないんです」──正論ではあるが、縦割り組織の常識からは逸脱していた。「私は双方の気持ちが分かりました」と小野氏は振り返る。
「エンジニアには『気持ちは分かるけど、急に言われたら相手もびっくりするよね』と伝えました。ただ、念のため提案内容を確認してもらったんです。すると本当に問題があった。改善したら実際に売り上げも上がったんですよ」
特に、“攻め型”の「テクノロジーセンター」と“守り型”の既存のIT部門、2つの異なる価値観の対立は日常茶飯事だった。コスト削減や効率化を重視する「守りのIT」は「モード1」、ビジネス環境の変化に応じ、柔軟性やスピードを重視する「攻めのIT」は「モード2」と呼ばれている。
「既存IT部門(モード1)は安定性を重視します。基幹システムを扱う彼らは『動いて当たり前、動かなかったら呼び出されて再発防止策』という世界で生きています。手順通りに進め、失敗は許されません」
「一方、テクノロジーセンター(モード2)はスピード重視。『とりあえずやってみて、問題があったらすぐ修正すればいい』というスタートアップ的な考え方です。この根本的に異なる2つの文化が、日々の業務で衝突を生んでいたのです」
対立を協力に変えた「4原則」とは?
このような文化的衝突は、実は小野氏が最初から予見していたことだった。2019年3月、テクノロジーセンター設立時、メンバーはわずか3人だったが、小野氏はある目的のもと「4原則」を定めた。
「テクノロジーセンターのメンバーは3人だけでしたが、働いてきた企業の文化も、経験してきた環境はみんなそれぞれ異なります。みんなそれぞれ真剣に仕事に取り組んでいるつもりでも、それぞれの価値観のまま進めてしまうと、いつか大きな衝突を生むかもしれません。だから、最初にルールを決めたんです」
【テクノロジーセンターの4原則】
- 「さん」付けの徹底、役職呼びおよび「くん」付けゼロの徹底
- 「HRTの原則」を100%守り切る。頭にくることがあっても絶対に怒らない
- 短所ではなく長所を見る。短所は辛くても苦しくても全力で受け止める
- 世の中を良くする、企業を成長させるなど、成果を出すチームであることを最重視する
3人から始まったこのルールは今、200人を超えるテクノロジーセンター全体に浸透している。特に浸透しているのが「HRTの原則」。Humility(謙虚)、Respect(尊敬)、Trust(信頼)の頭文字だ。
「Slackで誰かが言い過ぎると、周りが『HRT』のハート絵文字でリアクションします。それを見て本人も『あ、謙虚さに欠けたかも』と自分でHRTスタンプを押す。そんな文化が、少しずつ社内全体に根付いてきているんです」
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