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「日産の町」「マツダの町」はもう生まれない? 企業城下町が成立しなくなった理由スピン経済の歩き方(1/5 ページ)

台湾の半導体企業TSMCが熊本県菊陽町に工場をつくり「企業城下町モデル」ができているが、今後そのような成功事例が日本にできるかというと、難しいのではないか。その理由は……。

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スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 本連載では、私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」をひも解いていきたい。

 のどかな田園風景が広がり、これといった産業のない田舎に大企業が工場をつくってくれたおかげで雇用が生み出され、部品などのサプライヤーや物流企業も集まってくる。人の往来が活発になり、さびれていた商店街がにぎわいを取り戻し、家賃や不動産価格も高騰して地域経済が発展していく――。

 そんな「企業城下町」がピンチに陥っている。

 分かりやすい例がある。神奈川県横須賀市の日産追浜工場と、同県平塚市にある日産自動車の子会社・日産車体の湘南工場だ。


日産自動車(出典:ゲッティイメージズ)

日産の自動車はどうなる?(出典:日産自動車)

 追浜工場は2027年度中、湘南工場は2026年度末に生産終了することが公表され、工場周辺の住民からは、地域経済の衰退やシャッター商店街化への不安の声が広がっているのだ。報道によれば、追浜工場周辺の飲食店経営者からは「あと2年でうちも閉店かな」という落胆の声が聞こえている。

 工場が閉鎖しなくとも「危機」に直面している城下町もある。マツダの本社や生産拠点のある広島県安芸郡府中町だ。

 「広島から北米に輸出」というスタイルが多いマツダはいわゆる「トランプ関税」の影響をモロに受け、輸出台数が激減。関税の負担は、4月だけで90億〜100億円程度にのぼっている。

 「マツダがくしゃみをすれば、市民が風邪をひく」と言われるほど、府中町の経済はマツダに依存している。町にはマツダのサプライヤー企業だけでなく、マツダの社員を相手にするタクシー業者や飲食店も多いため、業績が落ちれば、町全体の経済にも大きな影響が及ぶのだ。

 このような話を聞くと、「地方の雇用や産業を支えるためにも、やっぱり国がものづくり企業を支えていかなければ」と思う人も多いのではないか。

 その気持ちは痛いほどよく分かる。ただ、残念ながら日本政府がものづくり企業に対して税金をいくらジャブジャブと注ぎ込んだところで、企業城下町というモデルを維持するのは難しい。

 なぜなら、日本では工場の数が年々減っており、今後も増える見通しがないからだ。

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