映画『国宝』は、なぜここまでヒットしたのか?:エンタメ×ビジネスを科学する(2/3 ページ)
映画『国宝』が、動員・興収の両面で好調だ。歌舞伎というファン層が限られたテーマであるにも関わらず、ここまで人気を集める理由は何なのか?
右肩上がりの興行収入、ヒットまでの流れ
前述の通り、本作は公開後も興行成績を伸ばし続けているのが特徴だ。『ボヘミアン・ラプソディ』のように公開後に評価を高めた例もあるが、週を追うごとに動員数を増やすケースは、近年の実写邦画では珍しい。
では『国宝』の観客動員数は、なぜ右肩上がりとなったのか。その背景として口コミの広がりによる客層の拡大があったと考えられる。
公開当初は題材の性質上、歌舞伎ファンや出演俳優のファンなど、限られた層が中心だったと推測される。しかし、作品自体の完成度や内容に対する評価も高かったことから、鑑賞した観客の熱い感想がSNS上で急速に拡散された。これが新たな観客を呼び込み、平日・週末を問わず観客が増加する好循環が生まれた。
このように、公開後の評価が人を呼び、動員数や興収が伸びる現象は、公開前の大々的な宣伝展開ができない小〜中規模のアニメ映画では、よく見られるパターンである。しかし、実写映画でこれほど伸びた例は、先に示した『ボヘミアン・ラプソディ』以外にはない。
2018年の『ボヘミアン・ラプソディ』を振り返ると、当初はロックバンドの「クイーン」の往年のファンが中心だったが、ファンでなくとも楽しめる作品だという評判が広がるにつれて観客が増え、最終的に興収135億円を超えるヒットとなった。
『国宝』も同様に、歌舞伎というテーマ性ゆえ、公開直後の口コミはコアなファン層から始まった。その後、歌舞伎の知識がなくても、年齢や性別に関係なく楽しめるという評判がSNSで広まったため、多くの人が劇場に足を運ぶようになった。マスメディアによるトップダウンの宣伝効果もあったが、それを上回るボトムアップ型のヒットが実現したといえる。
右肩上がりの成長は、作品そのものが持つ魅力と、SNSなどを通じた口コミとの相乗効果によるものだ。その結果、『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年)以来、22年ぶりとなる実写邦画の100億円超えも視野に入るほどの大ヒットとなっている。
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